清水俊弘さん(日本国際ボランティアセンター事務局長)と語る

~ イラク復興支援 復興支援は中立国中心の枠組みで ~

清水俊弘(しみず・としひろ)さん

1962年東京生まれ。タイ・カンボジア国境の難民キャンプでのプロジェクト調整員、東チモール、アフガニスタンにおける緊急対応担当などを経て02年7月より現職。著書『地雷 なくそう「悪魔の兵器」を』(ポプラ社)、共著書『市民として関わるカンボジア』(JVC)、『地雷と人間』(岩波書店)。http://www1.jca.apc.org/jvc
  【対談】軍事占領と一体化した復興支援を問う
 
03年11月29日にイラクで日本人外交官2人が射殺され、日本国内でも自衛隊のイラク派遣について世論の関心が高まっています。イラク攻撃に際してイラクの大量破壊兵器疑惑も含めて独自の情報を持つことなく、米英を支持した日本。そして米英の占領統治が始まるとともに、外交もその「占領統治機構」に深く組み込まれてイラクの「戦後」に関わることとなりました。今、イラクの人たちを支援する原点は何か、私たちは何を問われているのかを、イラクの小児ガンや白血病の患者が入院している病院に機材や薬品の寄付などを行っている日本国際ボランティアセンターの清水さんにお聞きしました。
 
  CPAへの参画は日本政府の命令
 
阿部 まず、 日本人外交官が2人殺害されたことについて、 どのように感じておられますか。

清水 日本政府がアメリカの攻撃を支持した段階から、 こういうリスクは伴っていました。 アメリカのイラク攻撃が概ね終了した4月上旬から6月までの3ケ月間は、 占領行政に対する散発的な抵抗運動や破壊された建物などへの略奪行為が続いていました。 無秩序状態で治安が悪かったわけですが、 7月、 8月、 9月になると様相が変わってきます。 米軍による占領行政がいつまで続くのか、 どういう政府を作るのかが見えてこない。 そんな占領行政が続くことに危惧を覚えた 「抵抗勢力」 がかなり組織的、 戦略的活動を始めたのです。 象徴的なのが、 8月の国連ビルの襲撃でした。 その後も占領行政を支援するグループへの戦略的な攻撃が続いています。 日本人外交官の殺害もその延長上にあっても不思議はありません。

阿部 私は7月から8月、 イラク復興特別委調査団の一員としてイラクに行きました。 亡くなった奥さんと井上さんともお会いしました。 彼らは非常に有能な人たちでしたが、 違和感を覚えたのが、 日本の外交官が連合軍暫定当局 (CPA) の本部に詰めていること。 奥さんは今年の6月からイギリス大使館に在籍のままCPAに出向して米英の占領政策にも深く関わっている様子でした。 外交官が占領統治に組み込まれることは、 憲法上問題がないのだろうかと思いました。 日本の報道の中で一番抜けているのは、 日本の外交官が占領統治機構に深く関わっているということです。 単純に日本人外交官がテロで狙われたわけではありません。 また、 イラクでは、 米軍の攻撃を受けた通信関係の施設は穴が開いていますが、 石油省は被害を受けていません。 明らかにアメリカによるフセイン政権打倒と石油ねらいのための戦争だということが、 街の状況からわかります。 狙った側はホテルにこもって、 有刺鉄線を張って自分たちを守っていました。

 

  大義なき占領が抵抗の大義を生む
 
清水 理由も不明確で国連の決議もなく始めてしまった戦争だから、 攻撃側に大義がないのです。 むしろ、 抵抗運動をする側には、 占領してきた側を追い出す大義ができてしまい、 日本人外交官が亡くなっても、 一方的に入ってきた側の一部が死んだことになる。 イラクでは残念ながら同情する人も少ないのです。

阿部 イラクへの調査団では、 イラク統治評議会の人たちともお会いしました。 タラバーニやカルザーニといったクルド系の人たちは 「自衛隊はウエルカム」 と言いました。 しかし、 たとえばテレビのリポーターに私が 「自衛隊派遣をどう思いますか」 と逆インタビューをすると、 すごくシニカルな顔をして 「ビー・ケアフル (気をつけた方がいい)」 と言うわけです。

清水 今、 イラクの人々は、 軍人に対して恐怖感を抱いています。 駐留米軍の仕事が市民の治安維持や改善に寄与しているわけではありません。 米兵が毎日何人死んでいると新聞に出るけれど、 その間のイラク市民の死亡者数は一切出てきません。 僕が7月にバグダッドに行った時、 フセインの息子のウダイとクサイが殺されました。 数日後、 バグダッドに別の息子がいるという情報があって、 確認もせずにそこへ米軍が突入しました。 そのとき、 知らずにいた市民もなぎ倒されてしまった。 軍事勢力が増えることが、 イラク市民の生活を安定させるのか。 むしろ不安材料を増やすことになっていくのではないでしょうか。 もう一つ恐いのは、 米軍は予備役の人たちが多く、 いつ狙われるかわからず非常にビクビクしています。 僕らも道路の前の方が渋滞しているので迂回しようと向きを変えた瞬間に、 道路を封鎖していた米兵に発砲されました。 予期しない行動に対して、 容赦なく先に攻撃するようになっています。 イラクにいる僕たちのスタッフは3回発砲されましたが、 全て米軍からのものです。

 

  15億ドル無条件に献上したのは失策
 
阿部 イラクの人によくよく話を聞いてみると、 例えば病院でも米兵が守ると憎悪からくる攻撃があって、 かえって今は自分たちが警備をしていると話してくれました。 では、 イラクの支援というのは、 本当は何をしたらいいのか、 逆に何をしない方がいいのか、 その核心部分についてお話をお聞かせください。

清水 軍隊を派遣することで今の占領行政の枠組みを強化することは、 明らかに問題の解決に逆行します。 ブッシュ大統領はイラク国民は解放されたと言いましたが、 同時にアメリカからもフリーでなければ意味がないのです。 アメリカは親米政権を作るというような意図を放棄すべきです。 日本もアメリカのイラク攻撃を支持したので、 ニュートラルなポジションではありませんが、 まだ1~2%の可能性があるとすれば、 自衛隊派遣のような軍事的、 かつ占領行政の強化の枠組みという方向ではなく、 中立的立場からフランスやドイツと復興のプロセス作りを働きかけていく。 その前提であれば15億ドル拠出の意味が出てくると思います。
15億ドルを無条件でアメリカに献上してしまったのは最大の失策です。 多くの国が拠出せず、 拠出した国も条件づけで、 イラク人への主権委譲が確定したり、 市民生活の治安が回復して、 復興という段取りに入れる状態を条件にして拠出すべきなのに、 その段取りもつけないままにお金を出してしまう。 市民や国民はこういうお金の使い方に怒るべきだと思いますね。

阿部 15億ドル拠出が決められたのは総選挙の前。 小泉さんは、 大事なことは国会の休会中に決めるわけです。 先だっての会計検査院の報告によれば、 厚生省が使ったお金のなかには説明できないお金などが130億円あったと伝えられました。 しかし、 外務省のODAがらみのお金は厚生省の比ではないでしょうし、 防衛庁関係の予算はさらに不透明です。
では、 最後にJVCの具体的活動について教えてください。

清水 現地では混乱が続いており、 長期的な活動プログラムが組みづらいので、 今は医薬品や医療検査器具など病院で必要な治療器具の供給を続けています。 いくつかの病院にこまめに足を運んで、 ドクターと協議して、 供給希望リストを出してもらいます。 戦争後、 混乱状態が続くことで、 病院が機能しなくなり治療が途絶えてしまう。 そのことで二次的、 三次的に生命を落としていく人もたくさんいます。 そういう人たちにも焦点を当てて、 ある程度の治療が継続できるように支援したいと考えています。

阿部 イラクでの 「人為的悲劇」 は今に始まったことではありません。 90年の湾岸戦争以降、 劣化ウラン弾の放射能被害によるガンや白血病の患者の増加、 国連の経済制裁による栄養失調などに、 イラクの人々は苦しめられてきました。 この間、 清水さんたちは、 NGOとして人間としてイラクの人たち、 とくに子どもたちを支援する活動を続けてこられました。 国家の体制に関わらず、 そこで手助けを必要としている人が生きるのに必要な支援をすることこそが重要です。 そのためにも、 アメリカの占領政策と一体化した外交をきちんと総括して、 米英依存の外交の軸を自立した方向へと仕切り直すことがまず必要だと思います。

 

(「阿部とも子News ともことかえる通信No.14」(2004年1月号)に掲載)