松本文六さんと語る
 

~ 日本の医療 ~

 
松本 文六(まつもと・ぶんろく)さん
1942年、大分県大分市生まれ。
71年、九州大学医学部卒業。
80年、天心堂へつぎ病院創設。
85年、特定医療法人財団天心堂・理事長。
著書に『注射による筋短縮症』(三一書房)、『地域医療が変わる』(ゆるみ出版)、『生命倫理の再生に向けて』(青弓社)、『パンドラの箱を開けたのか-崩れゆく日本の医療』(エヌワイ企画)ほか。
松本文六ウェブサイト http://www.tenshindo.org Email:matsumoto-bunroku@tenshindo.oag

 

 

 【対 談】日本の医療
 
36年間、 医師として医療現場で仕事をしてこられた松本文六さんは、 07年夏の参院選で、 大分選挙区から無所属、 社民党推薦の候補者として 「いのちが一番」 を合い言葉に立候補しました。 惜しくも当選には至りませんでしたが、 7年前に政治家となった小児科医の阿部とも子も、 松本さんと共に政治の場に医療現場の声を反映できることを強く願っています。 闘う医師の先輩でもある松本さんと、 日本の医療をめぐる課題についてお話しました。
 ■地域医療は崩壊寸前 医療現場を知る人間が行動を
 
阿部 松本先生の立候補の動機を改めて教えてください。

松本 まず、 日本の医療・福祉が崩壊しつつあるのを食い止めたいということです。 患者さんの立場からみても医療機関の経営者という立場からみても、“聖域なき構造改革”によって、 診療報酬・介護報酬が大幅に引き下げられ、 大分の地域医療も崩壊寸前です。 医療現場をよく知っている人間が政治の場で発言し、 行動しなければ変わらないと思ったのです。  また、 安倍晋三前首相は、 戦後体制からの脱却と言って教育基本法を強引に改悪しました。 用意されている教育諸法案は、 国の権限をさらに強めるものでしかありません。 日の丸・君が代の教育現場での強制をはじめ、 今は、 戦争に突き進む1930年代の日本の状況に似ています。 戦前への回帰は、 なんとしても阻止すべきです。  さらに、 2001年の参院選以来、 大分では民主党、 社民党、 連合の三者共闘によって続いてきた大分方式 (国政選挙ごとに民主・社民の候補者を交代させる) が功を奏して、 野党候補を当選させてきました。 今回も勝つ見込みがあると考えたからでした。

阿部 大分選挙区では、 野党が協力すれば当選できたはずです。 民主党中央の公認なしに民主党県連が候補者を擁立したため、 与党が漁夫の利で勝ったという大変残念な結果になりました。  それ以上に残念なのは、 日本のみならず世界中が医療をどうすればいいのか右往左往している今、 松本先生を国会に迎えることができなかったことです。  マイケル・ムーア監督の映画 『シッコ (Sicko=病気)』 にも、 国民皆保険制度のないアメリカで、 国民の6人に1人、 約4700万人に健康保険がなく、 世界一の経済大国でありながら、 お金がないために医療にかかれない人たちが大勢登場します。 松本さんが政治の場で発言するときには、 日本の政治と医療問題についてどんなことを語りますか。


 

 

 ■「どうしてもっと早く来なかったん?」「お金が気になって来るのが恐かった」
 
松本 地域医療に携わっていると、 医療が崩れると地域が崩壊するということをまざまざと見せつけられます。 大分でも公的病院で医師が引き上げられたり産科が閉鎖されて、 若い人がふる里に帰ってこられなくなっています。  私は 「経済のために社会や人間があるのではない。 人間のために経済や社会があるのだ」 と言いたい。 しかし、 今の市場経済至上主義、 お金もうけが一番偉い、 という政策は、 非正社員を増やし、 所得格差を拡げています。 社会を支える人の待遇、 命や健康を軽視すれば国が滅びる元になるでしょう。  小泉純一郎元首相の構造改革により、 医療・年金・介護・障害者福祉など社会保障制度が相次いで改悪されてきました。 弱い立場の人々をさらに苦しめる、 という深刻な事態が起きています。 私のところに診察に見えた一人のお年寄りは、 かなりひどい肺炎になっていました。 「どうしてもっと早く来なかったん?」 と言いましたら、 「払うお金が気になって来るのが恐かった」 と言います。 これが現実です。
 

 

 ■高齢者だけをひとまとめにする 天下の悪法、 高齢者医療制度
 
阿部 患者の窓口負担が高すぎます。 さらに、 来年4月から始まる高齢者医療制度は世界に例のない悪法と言っていいでしょう。 75歳以上の高齢者だけを別枠の健康保険に入れ、 今まで保険料を払っていなかった人も含め全員に保険料を払わせる。 現役並み所得でなければ窓口負担は1割でいいというけれど、 医療の内容を若い人とは変えてもいいというものです。  公明党との連立のための政策協定のなかで、 福田康夫首相は新たに保険料が発生する200万人の保険料を凍結するといっているけれど、 そんな小手先の議論をしている場合ではないのです。 医療機関も高齢者に医療を提供すると報酬が低い、 となると患者の選択、 提供する医療側からの選択が始まるし、 逆に高齢者が多い地方で一生懸命医療を提供しているまじめな医療機関に大打撃を与えます。 すでに実施に向け動き出してしまったので、 来年4月までになんとか廃止したいと思います。

松本 高齢者医療制度では、 当初の自己負担は1割でも財政的にマイナスになればその1割が変動することになっています。 構造改革の流れのなかで、 アメリカのように医療を民間の保険に任せる度合いを広げ、 税金の負担を減らす政策の一環です。 しかし、 国を支える人のいのちや健康を重視するなら、 医療には税を投入する必要があるのです。  財源は、 株取引の利益。 証券税制では現在10%課税されているだけです。 2007年度で2兆7000億円の利益に最高税率40%の累進課税を適用すれば、1兆800億円ほどになり、 5年で医療費を圧縮しようとしている額に相当します。 他にもこの間、 所得税も高額所得者の税率が引き下げられていますが、 累進課税を高めて所得の再分配をすすめるべきです。 健康保険も年金も持てる者と持たざる者を区別しないで、 制度を一元化すべきでしょう。

阿部 高齢者医療制度は、 税金の投入を逃れるために現役世代の健康保険組合から歯止めなく投入できるようにするという仕組みも隠されています。 高齢者医療保険制度の正体が正確に伝えられないため、 現役世代のなかには自分たちの負担が少なくなると思っている人もいるようですが、 とんでもないことです。 アフガニスタンで医療支援をしている医師で、 ペシャワール会の中村哲さんは、 干ばつや空爆に見舞われた人たちにとにかく 「生きておれ」 と言って水路を造っています。 患者さんが生きて、 医療機関に来ることができて初めて医師は、 治療ができるわけです。 持たざる者が医療から遠ざけられようとしている今、 松本先生が一日も早く政治の場に来てくださること、 そのとき私も政治の場にいられることを願っています。

松本 「小医は病を治し、 中医は人を治し、 大医は国を治す」 の言葉通りですね。 私たちもさらにがんばっていきましょう。





(「阿部とも子News ともことかえる通信No.29」(2007年10月号)に掲載)