小島敏郎さんと語る
 

~ 民主党政権下の環境政策 ~

 
小島敏郎(こじま・としろう)さん
 青山学院大学国際政治経済学部教授。(財)地球環境戦略研究機関特別顧問。名古屋市経営アドバイザー。愛知県政策顧問。岐阜県生まれ。東京大学法学部卒業。環境庁入庁後、公害健康被害の救済業務、「公害健康被害補償法」の改正を担当。水俣病の政治解決、「環境基本法」制定、中央省庁再編における「環境省」創設、「京都議定書目標達成計画」策定に尽力。05年、地球環境審議官に就任。洞爺湖サミットにおける環境問題交渉を担当した。
 

 

 【対 談】野田政権は増税の前に環境・脱原発で命を守る政策を示せ
 
 今年8月、再生可能エネルギー促進法(電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法)が成立しました。この再生可能エネルギー促進法を成立させたのは、温暖化も原発も嫌、という多くの人たちの声。その声を政治の場に伝える役割を果たしているお一人が小島さんです。「原発にも石油石炭天然ガスにも頼らない日本を創ろう。」を合い言葉に「エネシフジャパン(エネルギーシフト勉強会)」の活動を行っている小島さんと、民主党政権下の環境問題の取り組みについてお話ししました。

阿部
 小島さんから声をかけていただき、私も「エネシフ」の事務局に参加させてもらっています。実は、政権交代にむけた三党合意を民主、社民、国民新党で作っていたときに、温暖化対策基本法と再生可能エネルギーの電力の全量買い取りは基本合意でした。東日本大震災と福島第一原発事故後、改めて、原子力発電には頼れないと多くの人が意識するようになっています。
 しかし、民主党政権側に再生可能エネルギー促進法案を積極的に成立させる姿勢はありませんでした。そこで、「エネシフ」の勉強会を開くとともに議員の署名集めを行い、法案を成立させることに全力をあげました。小島さんは、環境政策を通した民主党の政策システムをどうご覧になっていますか。
 ■経済界や官僚の利益に乗って政権維持をはかる民主党■
 
小島
 民主党の政策決定システムは決してしっかりしたものではありません。環境問題でいえば、温暖化防止の政策も、政策づくりをした議員は関心を持っていますが、それが民主党全体に共有されないまま政権交代を果たしたというのが実態です。民主党は、政権に就いてからしばらくは、国民に約束した政策を実行しようとしましたが、鳩山政権の失敗から、いかに長い間政権を持たせるかという姿勢に極端に変わり、経済界や官僚の利益の上に乗っかってしまいました。政策そのものは、政権交代前の公約をうたっているものの、法案の成立や政策の実行に関する推進力は弱いといえます。
 再生可能エネルギー推進法は、何としても法律を通そうという意識は弱かったのです。そこで3・11以降、もう原子力に頼らないという国民的コンセンサスに頼って法案を成立させるため、議員と国民が一緒に動く仕掛けとして「エネシフ」勉強会を始めました。
 法律は両院の議決で成立するものですが、実際は、国会対策委員会、国対のメンバーで段取りが決まってしまいます。国対から普通の国会議員さえもが疎外されているので、国会対策の段取りを変えようと、普通の議員を対象にした署名を始めたのも珍しいことでした。国民にとっても、地元選出の議員に署名要請や国会審議の傍聴をするなど、普通の人ができるロビー活動をやってみるきっかけになりました。インターネットのツイッターなどで、気軽に政治と関わる方法が伝えられたのもよかったですね。
 
 ■財務省にとって政治家は増税のために使い捨てる存在■
 
阿部
 菅さんは、原発事故の後、脱原発をはっきり言いましたが、野田さんの下で、脱原発はあいまいとなり、代わりに増税を言い出しました。今こそ、再生可能エネルギーの技術開発を含めて政治が後押しすべきところですが、野田さんの戦略性のなさが気になります。

小島
 増税は政府が国民に信頼されて初めて可能となります。国民から信頼されていないのに増税をしようという。根本のところが間違っています。財務省にとっては、総理大臣は使い捨ての存在です。増税がうまくいってもいかなくても、国民の信頼がないままに増税をしようとすれば、その政権はそれで終わりです。

阿部
 自民党はもう嫌だと政権交代したけれど、現在の民主党政権が信頼される政治かというとそうでもありません。

小島
 戦後の政治のなかで、最後のオーナー政治家といっていいのが、自民党の竹下登さんでした。今は、「こういう政治をしたい」といってそれを一から作る政治家は見なくなりました。橋本龍太郎さんくらいまでは、オーナー政治家の遺産で食べていましたが、遺産が尽きたところで、自民党の政治は命運が尽きました。小泉純一郎さんのような変わった人が時々現れても、あくまでも彼個人のふるまいが注目されるだけです。政権交代は権力奪取だけが目的で、何がしたくて政権を取るのかという政策が共有されていなかったので、政権政党になったら軽々とマニフェストを捨てることができるのでしょう。増税は与党の責任というなら、民主党が野党になったら増税に反対するということなのでしょうか。政策に対する信念があるなら、政権交代の前に言ってほしいですね。官僚と距離感がないということは、頭が真空だったということです。
 
 ■自民党の古い成功パターンでは生き延びられない■
 
阿部
 社会のビジョンを持った人が少なくなったというのは、経済界にも共通しています。

小島
 財界でいえば、最後のいわゆる財界人は、平岩外四さんでした。東京電力社長から会長になり、第7代の経団連会長を務めました。東京電力は独占的な企業でめったなことではつぶれないのだから、自由競争をしている企業の代表としてはふさわしくないのかもしれません。しかし、平岩さんは、だからこそ、企業モラルの確立のために動き、自分の会社のことだけでなく日本経済を考えた人でした。東京電力がなぜこうなったかというと、普通の会社になってしまったからです。
 普通の会社は、自分の会社だけが生き残るために都合のよい法律制度をロビイングし、官僚、政治と結びついて、新規参入を排除します。経産省は、現在力を持っている企業を脅かす新規参入者を排除するという役所になってしまいました。明治時代の政商ではないのですから、国に頼って会社を大きくしようなんて、健全な企業人は考えないものです。だから、だめになっているのが現状です。
 今の野田政権は、財界、官僚、大企業労組の利益の上に乗るという、かつての自民党が成功したパターンで生き延びようとしています。竹下さんや平岩さんの時代は過ぎました。同じようなことをしようとしても、成功しません。野田総理は若いですが、頭が古くては世代交代にはなりません。新しい枠組みや計画を作って、新しいビジネスや政治のモデルを作るのが、世代交代です。

阿部
 既存の利益配分に一生懸命になってしまっているわけですね。

小島
 かつて、日本は坂の上の雲を目指していたと言われましたが、今は、坂の下の沼に向かって転げ落ちている状態です。その沼が底なし沼でないことを望みますが、そうならないうちに、これまでと全く違う新しい政治や経済のモデルを作り、実行しなければなりません。電力の自由化や発送電分離、スマートグリッドなどは、自由主義経済を活性化する一つの方法です。けれども、しがらみが多くて、そちらに身を置こうという人は少ないですね。民主党も、与党になればあっという間にしがらみができて、からめ捕られてしまいましたからね。
 
 ■野田政権は明確に「原発廃止」のアナウンスを■
 
阿部
 津波、洪水などの災害が起こり、敗戦で焦土化したにも等しい状況の中さらに原発事故が起き、子ども達の将来が危ぶまれ、国土が、森林が悲鳴を上げているにもかかわらず、政治は手を打っていません。

小島
 野田政権では、党内融和に重きをおいて、政策実行ではなく政権維持の内閣を目指しています。ですから、党内融和に反するので罷免してまで野田さんは政策を実行しようとはしないでしょう。
 「原発の新増設はできない」という「状況判断」ではなく、「原発の新増設はしない」 という「政治的な意思」を明確にすることです。たとえ20年後、30年後でもいいから「原発を廃止する」という意思が明確に示されれば、もんじゅも廃止、プルサーマル計画は終わりになりますし、核廃棄物の最終処分に正面から向き合わなければならなくなります。それを明確にした上で、原発を再稼働するなら、その動かす条件をきっちり決めればいいと思います。

阿部
 野田政権は、増税の前に、まず、国民の信頼を取り戻すこと、災害対策や脱原発をはじめ、国民の命を守るために必要なビジョンを示して、実行してほしいと思います。





(「阿部とも子News ともことかえる通信No.41」に掲載)