田中康夫さんと語る
 

~ 反TPP署名活動から見えてきた新たな地平 ~

 
田中康夫(たなか・やすお)さん
 新党日本代表、 衆議院議員、 作家、 元長野県知事。 1956年東京都生まれ。 一橋大学法学部卒。 大学在学中に書いた 『なんとなく、 クリスタル』 (新潮文庫) で1980年度の文藝賞を受賞。 2000年、 長野県知事に就任。 02年7月、 県議会で知事不信任案可決。 県議会の不信任決議を受け、 失職を選択、 同年9月、 長野県知事選挙で再選。 05年、 「新党日本」 を立ち上げ代表に就任。 07年参議院選挙に当選、 09年8月、 衆議院選挙 (兵庫8区=尼崎市) に当選。 著書に 『神戸震災日記』 (新潮文庫)、 『ナガノ革命638日』 (扶桑社) 『日本を―ミニマ・ヤポニア』 (講談社) など多数。 ツィッター連日更新中 http://twitter.com/loveyassy
 

 

 【対 談】反TPP署名活動から見えてきた新たな地平
 
 11月12日、野田佳彦首相はハワイで開催のアジア太平洋経済協力会議(APEC)で、環太平洋経済連携協定(TPP)の“交渉参加に向けて協議”に入ることを表明しました。これは実質的な「交渉参加表明」です。この直前、衆議院で「『TPP交渉協議への参加表明』を11月12日からのAPECの場で日本政府は行うべきではないとする国会決議の実現に関する呼び掛け」がなされ、わずか3日間で232人もの与野党議員が署名に応じました。今回は、この署名を仕掛けた新党日本の田中康夫さんとのトークです。

革新と保守をこえた大きなうねり 個人を求めて連帯をおそれず

阿部
 私も呼びかけ人の1人に加わった今回の署名ですが、最終的には民主、自民、公明、共産、社民、国民新党、新党日本、たちあがれ日本、国守の会   とさまざまな政党の議員が加わりましたよね。

田中
 みんなの党をのぞく全党の議員が賛同しています。呼びかけ人は、阿部さんや僕を含め10名。会見では、僕を中心にして、歴史問題などでは真逆の見解を示している阿部さんと自民党の稲田朋美さんが並んでいたけど、それはこの署名活動が新しいステージへの萌芽であることを象徴していたように思います。つまり日本で初めて起きたイデオロギーをこえた大きなうねりなんじゃないかと。

阿部
 そもそも私自身、イデオロギーというものは、何となく肌にあわないと思っています。医師として生身の人間を扱ってきた私からすれば、思想云々で人を分けていくのは性に合わないし、違和感があるんですね。人間って幸せの価値観はそれぞれ違うし、1人の人間の中にも多様な側面があると思っています。
 
 ■赤旗と日の丸が並び立ち「日本をこわすな」の声あがる■
 
田中
 僕はこの間、「TPPとは、“羊の皮をかぶった狼”だ」と繰り返し言ってきました。そもそも名前からして、「環太平洋」といいつつ、最初の文字は「パン・パシフィック」の「P」ではなく「T」。これは「トランス・パシフィック」、つまり太平洋の向こう側を指す。外務省の意図的な誤訳でしょう。事実、環太平洋の一員であるインドネシア、フィリピン、タイ、中国、台湾、韓国は参加しないし、参加を求められてもいない。だから、TPPに参加すれば、逆に日本はアジアから分断されてしまう。結局、TPPの正体とは、アメリカが一人勝ちする、自由貿易を装った保護貿易なのです。しかも「自由化」されるのは農業だけではなく、金融、保険、医療、派遣労働、公共調達、電波・放送と多岐にわたります。結果的に、 「非関税障壁」 の撤廃を名目にあらゆるところで規制緩和がなされ、日本人の仕事と生活は壊滅させられるといっていい。
 それほど大きな問題をはらんでいるからこそ、いま垣根をこえた反TPPの国民運動ができつつあります。野田首相がAPECへ行く直前、議員会館の周辺では、共産党系の農団連が「日本をこわすな」と声をあげている横で、自称保守の若い青年たちも同じセリフを叫んでいました。赤旗と日の丸がともに並び立つ今までに無い光景がそこにあったのです。
 これに呼応する形で、党利党略をこえて個々の議員が立ち上がって署名に応じてくれたのは、大きな一歩といえるんじゃないかな。なんというか、人って信じられるなぁ、捨てたもんじゃないなぁって思いましたね。そういう人間の体温や心の機微って、政治にとって大事なことですよね。

阿部
 私も当初、何人集められるか、どんな人が加わってくれるのかホントに分からなかったけれど…。でも、この活動によって次の地平が見えてきたというか。

田中
 僕は、かつての学生運動で叫ばれたような「連帯を求めて孤立を恐れず」ではなく「個・人・を求めて連帯を恐れず」という意味でのユナイテッドインディビジュアルズ(=自律した個々人が連帯する)の必要性をこれまでさまざまな場面で強調してきましたが、まさに、それが政党政治、議院内閣制の中で起きたんだと感じました。
 
 ■さまざまな形ではずれてきた党派やイデオロギーのくびき■
 
阿部
 3・11以降、さまざまな価値観が崩れ、政党のくびき、イデオロギーのくびきがはずれているように思います。たとえば、私が6月に「再生可能エネルギー促進法」の賛同署名をお願いして回ったら、203名分集めることができました。私は、この中から何かが生まれてくると思いましたが、そのさなかに、TPP参加問題が浮上してきました。私はTPP参加に反対するけど、だからといって私が「保守」ということではない。「再生可能エネルギー」と同様、党派をこえたテーマですよね。

田中
 そう。ところが、民主党では、とくに1年生議員はなにか違うなと思っていても、国会対策委員会の意に従わなくてはならない状態にある。社会の歯車になって苦しんでいる人たちに希望を持てるようにしたいと思って政治家になったはずなのに、自分が最たる歯車になっている。皮肉な話です。
 
 ■定見失い、組織維持のために“供給者視点”に堕ちた民主党■
 
田中
 こうやって見てみると、従来見てきた「イデオロギー」とは様相が異なってきていることが分かります。TPPの推進派には、松下政経塾出身の議員がいる一方、労組出身の議員もいる。彼らは、一見、共存できないように思えるのに、実際は同じ方向を向いている。なぜか。マーケティングの「ケーススタディ」や組合活動の「運動方針」という机上の空論を立て、「こうすればこうなる」というやり方で物事を進める人たちだから。そこには、体温も感じられないし顔も見えない。
 この人たちは、「科学を信じて技術を疑わず」という意識なので、結果的に供給者の都合で社会をつくっていくんです。

阿部
 自民党政権時代からずっと供給者優先の社会でしたね。その極みが原子力発電所。

田中
 イデオロギーを超えて、民主主義を守り育む上で、コンシューマー・オリエンテッド   消費者の側に立った視点が重要。誰もがその1人なのです。そして、人間の英知を用い「科学を用いて技術をこえる」精神も。
 つまりいま、保守でも革新でも、それぞれ2つの種類の人たちがいるということになります。ひとつは組織を守る人たち、もうひとつは人間を守る人たち   といった区分でしょうか。政権交代によって、政府の中枢が保守から進歩的な人たちに変わったと思ったけど、実は、それらは「革新」という名のもとに組織を維持しようとしている人たちだったということがこの数年ではっきりしました。

阿部
 労働者派遣法改正案も、かつて民主・社民・国新・新党日本でつくったものから製造業派遣や登録型派遣の原則禁止が削除され、骨抜き改正案になって、しかもろくに審議もせず、成立させようとしました。

田中
 そんななかで自分を失わないで国民を守ろうとした人たちが思想をこえて手を結んだのが今度の署名。ちょうど大本が通奏低音でつながってるジャズとクラシックの関係みたいな感じで。このたとえでいえば、民主党の執行部は定見がなく右顧左眄しているポップスベスト10みたいなもんだね(笑)。
 
 ■大増税」「TPP」「放射能」3つのテーマで立場を明確にさせる■
 
阿部
 田中さんは、日本では今後、どういった政党政治の形が理想だとお考えですか?

田中
 少なくとも二大政党では多様な民意は反映されないということが分かりました。かといって第三極がよいかというと、それはみんなの党を見れば、火を見るより明らかで…。
 僕は基本的に、50~70人くらいの政党が4つか5つあって、それらがその都度連立を組む形がよいと思います。そして、いくつかのテーマについて、その立ち位置をはっきりさせ、それぞれが重なった部分で共闘を組む。
 いま重要だと思われるテーマとして、僕は、「大増税」 「TPP」 「放射能」 の3つを挙げます。たとえば、石原慎太郎東京都知事は、TPPは反対だけど、大増税・放射能は大賛成。みんなの党は、大増税と放射能は反対で、TPPは賛成。そうやって各政党、あるいは各議員がどこに立っているかをはっきり分かるようにすることが求められていると思います。





(「阿部とも子News ともことかえる通信No.42」に掲載)