中沢新一さんと語る
 

~ 反TPP署名活動から見えてきた新たな地平 ~

 
中沢新一(なかざわ・しんいち)さん
 1950年、山梨県生まれ。思想家・人類学者。明治大学野生の科学研究所所長。今年2月に活動をスタートしたみどりの意識を可視化するネットワーク、「グリーンアクティブ」の代表を務める。震災直後に発表した『日本の大転換』(集英社新書)などが大きな話題に。著書に『緑の資本論』(集英社)、『チベットのモーツァルト』『森のバロック』(ともに講談社学術文庫)など多数。
 

 

 【対 談】“日本の大転換”への道筋
 
 未曾有の大震災から1年経ちますが、いまだ原発事故の収束のめどが立たず、復興の方向性も定まらない状態です。そんな中、人類学者の中沢新一さんらが中心となって、「グリーンアクティブ」という運動体を立ち上げました。作家のいとうせいこうさん、社会学者の宮台真司さん、歌手の加藤登紀子さんらもメンバーに加わるこの団体は、ゆるやかなネットワークによって独自の草の根運動を展開する「緑の党のようなもの」だとか。その活動を通し“日本の大転換”をはかろうという中沢さんにお話をうかがいました。
 
 ■"自然との共生"思想をもとに「緑の意識」をつなげていく■
 
震災で浮かび上がってきた日本人と自然の関係性

阿部
 中沢さんたちが立ち上げた『グリーンアクティブ』は「緑の意識を可視化する」をテーマに掲げ、具体的な課題として、脱原発、TPP反対、地域社会の再生などを挙げておられます。これは、社会の構造や資本主義をも問い直す「緑」の思想というわけですね。

中沢
 僕は、今回の震災で、人間と自然の関係というものが大きく浮上してきたように感じています。東北の被災地を見たり、現地の人々の声を聞くと、切り離すことのできない人間と自然の深いつながりによってつくられた社会や文化がそこに確実にあったということがよく分かります。そこでは自然の方が圧倒的に強く、人間はその中にとけ込む形で生活や経済活動を営んできた。つまり住んでいた人々   とくにお百姓さんや漁師さんたちにとって自然は自分の一部でもあるわけです。いま、農作業や海での操業ができなくなり、土地を離れなければならなくなった彼らの痛みや苦しみは想像に難くありません。
 「緑の意識」というと、「自然環境を守る」とか「生物多様性の保全」といったことを思い浮かべるかもしれませんが、それはどちらかというと、自然を克服の対象として捉えてきた都市の人間が頭の中で描いた「自然観」なんですね。けれど日本にもとからあったのは、もっと奥の深い「自然との共生」をベースとした考え方です。
 僕たちがやろうとしているのは、はからずも大震災でクローズアップされたその日本人の根っこにある「緑」をもとに、社会や経済のシステムを変えていこうというものです。


阿部
 政府がいまやろうとしている復旧・復興は、東北に色濃くあった「自然との共生」を無視したもののように思えます。単に予算をつけ、お金をつぎ込めばいいと考えている。命に疎いというか、痛みに鈍感というか……ずっとそんな感じがしていました。
 
 ■「分配」の仕組みにもとづいた復興や脱原発ではダメ■
 
中沢
 お金というのは、面倒なものを断ち切り、社会を円滑、かつ合理的に動かすのに都合のよい道具です。しかし、今回の震災復興にそれはまったく合わない。被災地の思いは、「自分たちの生きてきた、暮らしてきた世界をもう一度立ち上げたい」というものです。つまり、自然のもとに土地や人間がつながった社会、自然と一体となった感覚を取り戻したいと願っている。さまざまな「縁えんを切る」お金でそれができるわけありません。

阿部
 政治の世界は、「分配」の仕組みで成り立っているから、そういった発想になるんでしょう。いま求められているのは「分配」ではなく「共生」の仕組みなんですよね。

中沢
 「お金」の話でいうと、「脱原発」を単なる「再生エネルギーへのシフト」と捉える向きがありますが、それは大きな間違い。ともすれば、新しいエネルギー利権を生み出し、40年前に原発がもてはやされたときと同じ轍を踏むことになりかねない。

阿部
 私もその成立に奔走した「再生可能エネルギー促進法」なども、そういった点で、誤解されているようなところがあるかもしれません。経済社会なのだから、成長産業としてとらえるのが悪いとは思わないけれど、「再生エネルギーは地域の命につながるもの」「必要なエネルギーを得て自然に返す」という考えを失っては、画竜点睛を欠くということになってしまいます。
 
 ■大地からの声と若い表現力を結びつけ、政治にぶつける■
 
阿部
 原発から急に再生可能エネルギーにのりかえるのも問題ですが、これまでの原発推進体制への批判のみに執着する人もいます。

中沢
 日本の政治的な運動の頑なさというか、閉鎖性がよく現れているといえますね。そうなってしまう原因の一つは、戦後の左翼勢力がつくってきたやり方やイデオロギーにあると思います。そもそも左翼の人たちが掲げた「社会民主主義」は、工場労働者の進歩や発展が基軸にありました。けれど、この国の礎をつくり、発展を支えてきたのはお百姓さんや漁師さんたちです。彼らの生き方や考え方を無視して上から左翼思想を植えつけようとしたってなにも変わらない。
 農村や漁村にあるのは、保守的な世界です。そこに根を張った自民党が腐敗した利権構造をつくってきたことは確かですが、同時にそこには、「生命」を通しての人とのかかわりや自然を土台としたつながりがあります。いまは、イデオロギーをこえ、そうした結びつきを大切にした運動を進めることが求められているのではないでしょうか。

阿部
 「運動が閉塞している」という意味でいうと、たとえばいま脱原発の運動が広がっていますが、3月11日の追悼供養でおじいさんやおばあさんたちが亡くなった人を悼みながら、黙々とお経を唱えている一方で、若い人たちが太鼓を叩いたり、歌ったりしてデモに出る光景が見られます。ちょっとちぐはぐなんだけど、脱原発デモは浮いてる?

中沢
 浮いてますね(笑)。若者にはエネルギーと表現手段があるけど、周りを巻き込むほどの度量はない。かたや年寄りは、怒りたいけど、しがらみとかもあってうまく言葉を外に発することができず、地べたでお経を唱えるしかない。僕がやろうとしているは、この両者をうまくつなげることなんです。
 もともと日本には、大地の底からわきあがってきた宗教的なエネルギーが表現と結びついて、政治の場にぶつけるといった文化がありました。一揆や念仏踊りなどは、そうした形で出てきたものです。
 
 ■政党や保革を問わない大きな「グリーン」の輪を■
 
阿部
 では、政治に対してどんなアプローチをお考えなのでしょうか?

中沢
 僕らは「緑の意識」で結びついた人々が、政治の世界に一つの力を持つべきだと思っています。そのためには、大きなネットワークをつくらねばなりません。方法として、まずインターネットの活用があると思っています。ネットを最大限に使った政治形態は日本ではほとんどありませんでしたから。
 それから、いま構想しているのは「グリーンシール」。脱原発やTPP反対などの政策に賛同する候補者に政党や保革を問わずお墨付きとしてのシールを貼るという作戦ですね。
 ただ、もっと強力ななにかがある気もします。それはこれから開発していきたい。
 正直、僕は阿部さんと一緒にやりたいんですけどね。阿部さんがいれば百人力ですよ。

阿部
 私もまだまだ新しい試みができると思っています。是非、一緒にやりましょう!







(「阿部とも子News ともことかえる通信No.43」に掲載)