鈴木悌介さんと語る
 

~地域に即したエネルギー自給体制で 原発のない持続可能な社会へ

 
鈴木悌介(すずき・ていすけ)さん
 1955年、神奈川県小田原市出身。江戸時代から続く老舗かまぼこメーカー「鈴廣」の次男として生まれる。大学卒業後、渡米し、起業。91年に帰国し家業の経営に参画する。現在、鈴廣かまぼこグループの代表取締役副社長。2000~01年小田原箱根商工会議所青年部会長、03年日本商工会議所青年部会長、09年第3回ローカルサミット実行委員長などを歴任。現在、小田原箱根商工会議所副会頭、場所文化フォーラム会員など。「食べもののいのちを大切に」がモットー。
 

 

 【対 談】 経済活動と脱原発
 
 政府は関西電力大飯原発3・4号機の再稼働に踏み切りました。結局、「経済活動の安定化には原発が必要」という経団連などの主張が通ったわけです。ただ、「経済界」にもさまざまな意見があります。今年3月、“脱原発”を掲げる「エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議」(エネ経会議)が発足しました。現在、全国の中小企業経営者450人が名を連ねています。同会の世話役代表を務める鈴木悌介さんは小田原の老舗かまぼこメーカー「鈴廣」の副社長。鈴木さんに会のめざすものについて語ってもらいました。
 
 ■経済活動の前提は安全・安心な普通の生活
 
阿部
 エネ経会議の立ち上げは、もちろん3・11がきっかけだと思いますが、その詳しい経緯を教えていただけますか?

鈴木
 私の地元の小田原や箱根は、福島第一原発から300キロ離れていますが、事故後、観光客が激減し、うちのかまぼこも売れなくなりました。こんな経験は初めてのことです。そのとき実感しました。人間は普通に街を歩け、普通に空気を吸って水を飲めるからこそ、おいしいものを食べに行ったり服を買ったりするんだ、と。つまり経済活動は安全・安心なごく普通の暮らしが大前提なんですね。その「当たり前」が、もはや福島には存在しなくなっている。子どもたちが線量計をつけて見えないものに怯えて生活しているのです。
 この状況を目の当たりにしながら、経済界のトップは、いまだGDPがどうの、経済成長がどうのと主張しています。安全・安心を無視してそんなことを言ってもまったく意味がないし、そもそも経済が成り立たない。
 けれど、「原発がないと産業が空洞化する。飯が食えなくなる」と声高に言われると、多くの人たちは「それじゃあ困るな」と考えるでしょう。私からすれば、経済界がすべてそういう意見だとは思えません。イデオロギーや感情論ではなく、論理的な議論と具体的な実践が必要だ、と強く感じました。
 そこで、反対するのではなく「原発がなくても健全な暮らしができる」方法を実践・発信していく経済界のネットワークをつくろうと仲間たちに声をかけました。これに、多くの経営者が参加の意思を示してくれました。

阿部
 実は、私たちが3月に超党派の国会議員で「原発ゼロの会」をつくったのは、地方自治体の首長さんたちによる「脱原発をめざす首長会議」、そして鈴木さんらのエネ経会議に大きな刺激を受けたところがあります。
 エネ経会議の設立総会に私も顔を出しました。そこで各地の実践が紹介されていましたが、政治の場での抽象的な議論より、ずっと地に足のついた話をしていると感じました。
 
 ■「エネ自給体制を考えることはふるさとの特性を見直すこと
 
鈴木
 そこでも話したことですが、私たちがめざすのは、各地域に合った小さな自然エネルギーの自給体制が無数に立ち上がり、その先に持続可能な社会をつくることです。
 すでに小田原では、太陽光発電で自給する、いわば「小田原電力」というものが官民一体のプロジェクトとして始まっています。中小企業にとって、下請・孫請けという形でしか関われない原発と異なり、小さなエネルギーシステムは自主的に関与できる。エネ経会議では、そうした各地の取り組みの情報を共有できるデータベースの構築を考えています。
 地域に合ったエネルギーを模索するというのは、つまるところ域内になにがあり、誰がいて、どこにお金があるかといったことを検証するということです。結果的に、地域の特性を見直すきっかけになるはずです。
 日本の魅力って、各地にすごく特色のある文化や歴史、風土があって、それが重層化し、つながりあっていることなんだと思うんです。私は長年その点に注目してまちづくりの勉強会などをやってきましたが、エネルギー問題にもそうした視点が必要だと考えます。

阿部
 日本は明治の中央集権化と敗戦後の復興で、都市指向や均一性・効率性が重視されるようになり、いつの間にか各地方が持っている特性が見失われていきました。エネルギーのことでいえば、都市部に電力を送るため、地方に原発が建てられ、地方はその見返りとして“豊かな”生活を手に入れてきたわけですが、その結果、地場産業は衰退し、電力会社が支配する社会ができた。今回の大震災で、その歪みがはっきり表れたといえます。
 
 ■省エネ・節電ビジネスで経済を活性化できる
 
阿部
 ところで今、大飯原発の再稼働が決まりました。マスコミなどが「電力が足りない」と大合唱するので、多くの人がそれを信じてしまっています。

鈴木
 どうも夏に四六時中15%不足すると誤解している人が多いようですが、実際、足りなくなる確率があるのは、とくに暑い何日か、しかもピークの数時間に過ぎません。そのピーク時の電力カットと、電力の総使用量を減らす話がごっちゃになっている。
 差し迫った前者の問題については、事前に準備し、スケジュールに沿って協力し合えばしのげます。後者は時間をかけ、知恵を出して工夫や努力をすればいい。昨夏、うちの会社では「原発分はいらない」と言いたくて25%の節電にチャレンジしました。多くの中小企業は、社長のオヤジが製造も販売も事務も担ってるから、電気のことにまで手が回らない。だけど、真剣にやれば1割や2割はすぐに節電できるはずです。
 たとえば、冷凍機などは10年前に比べぐんと性能がよくなっているから、買い換えれば3割4割の節電が可能です。しかしまだ多くの経営者は様子を見ています。なぜなら「原発が動けば電気代が下がるかもしれない」というスケベ心が働いているからです。
 それが「原発を再稼働させない」と決まれば、ソロバン弾いて何年で元がとれるか計算し、設備を入れかえるはずです。そうやって省エネビジネスでお金が回っていく。

阿部
 電気をジャブジャブ使わないと経済が発展しないと日本人は思いこんでいるけれど、ドイツなどのように、省エネで活性化させている国だってあるんですよね。消費税なんか上げるより、そういう投資に補助金を出した方が、うんと経済はよくなりますよ。
 
 ■未来から借りた土地をきれいなまま返したい
 
鈴木
 本来、「経済」というのは、単なるお金のやり取りではなく、「経世済民」   世を治めて民を救うための営みです。原発は、そうした考えと相容れない存在です。使用済み燃料の処理と廃炉のための膨大な費用という問題を抱え、さらに万一のことがあれば取り返しのつかない事態を招くわけですから。
 また、地域で生まれ育ち、そこで商売をしている者にとって、ふるさとこそが経済活動のベースです。その郷土の地を私は未来から借りているものだという感覚があります。私はそれを未来へきれいにして返したい。ふるさとを危険にさらし、二度と住めない場所にしかねない原発は、当然受け入れられません。

阿部
 経済の本来の姿を取り戻すためにも、そして未来へふるさとを返すためにも、政治がきちんと決断をしなければいけないということですね。







(「阿部とも子News ともことかえる通信No.44」に掲載)