「国民生活基礎調査の中止決定に関する質問主意書・答弁書」
国民の所得状況や生活水準を調べる国民生活基礎調査は国の基幹的な統計調査ですが、
折しもコロナ不況による生活実態調査と生活支援が一番必要なこの時期に、政府
はあろうことかこの調査を一方的に中止してしまいました。
コロナ感染症を理由としていますが、実施方法を工夫して調査を継続すべきです。
(質問と答弁(赤字)は以下の通りです。)
令和二年六月十二日
衆議院議員阿部知子君提出国民生活基礎調査の中止決定に関する質問に対する答弁書
内閣衆質二〇一第二一九号
厚生労働省は三月三十日に「二〇二〇(令和二)年国民生活基礎調査の中止について」をホームページで公表した。
中止の理由として、「国民生活基礎調査は保健所職員が統計調査員の指揮監督や対象世帯からの問い合わせ対応等を実施」しているが、「保健所では、新型コロナウイルス感染症対策が最優先」であり、また、「統計調査員と対象世帯の方との長時間の接触は好ましくない」、かつ、「結果精度の確保等の観点から、郵送調査への変更や時期の延期は困難な状況であること」とされている。
また、同調査は三年ごとに大規模調査があり、二〇二〇年は簡易調査の年であることも理由とされている。しかし、「国民生活基礎調査」の目的は、「保健、医療、福祉、年金、所得等国民生活の基礎的事項を調査し、厚生労働行政の企画及び運営に必要な基礎資料を得るとともに、各種調査の調査客体を抽出するための親標本を設定すること」とされている。
関連して以下質問する。
1 国民生活基礎調査は前述したように「厚生労働行政の基礎資料」と位置付けられている。そもそも基礎的な統計資料の重大性をどのように認識しているのか。
1について
国民生活基礎調査(以下「本調査」という。)は、御指摘のとおり、保健、医療、福祉、年金、所得等国民生活の基礎的事項を調査し、厚生労働省の所掌事務に関する政策の企画及び立案に必要な基礎資料を得る等の目的で実施しているものであり、政府としては、もとより、こうした基礎資料の重要性を十分認識しているところである。
2 折しも全世代型社会保障検討会議など、社会保障全般の議論のさなか、今国会でも年金制度関連法や介護保険関連法改正案を上程し、介護保険事業計画も本年度中に策定という状況にある。こうした中で、議論の根拠資料を得るための基本調査を「中止」するという判断に至った経過を示されたい。
2について
本調査については、都道府県等の保健所の職員が統計調査員の指導監督等を実施する必要があるが、保健所においては新型コロナウイルス感染症対策が最優先であること、統計調査員が対象世帯を訪問した上で対面で本調査に係る説明・確認を実施することとなるが、新型コロナウイルス感染症対策の観点から、統計調査員と対象世帯との長時間の接触は好ましくないこと、郵送調査への変更等は結果精度の確保等の観点から困難な状況であること等を踏まえ、統計法(平成十九年法律第五十三号)第十一条第一項の規定に基づく総務大臣の承認等を経た上で、令和二年においては行わないこととしたところである。
3 中止の理由として、「保健所では、新型コロナウイルス感染症対策が最優先」とされている。しかし、社会保障統計年報によれば、全国の保健所設置数は一九九二年の八百五十二か所から二〇一九年には四百七十二か所へと半数以下に減っている。職員数も同様に一九九二年の三万四千四百六十三人から二〇一七年には二万七千九百二人に減らされ、公衆衛生の専門医師の不在、保健師の欠員や兼務の多さなど、その著しい機能低下が諸方面から指摘されている。
保健所業務のひっ迫を招いた原因の一つは、この数十年、「行政の効率化」の中でその数と機能を大幅に削減してきたことにあるのではないか。政府としてどのように受け止め、改善を図るのか。
3について
お尋ねの「保健所業務のひっ迫を招いた原因の一つは、この数十年、「行政の効率化」の中でその数と機能を大幅に削減してきたことにある」の具体的に意味するところが明らかではないため、お答えすることは困難であるが、地域保健対策の推進に関する基本的な指針(平成六年厚生省告示第三百七十四号。以下「基本指針」という。)においては、「保健所は、地域保健に関する広域的、専門的かつ技術的拠点としての機能を強化するほか、地域の医師会の協力の下に医療機関との連携を図ること等により、・・・ライフサイクルを通して一貫した保健、医療、福祉サービスを提供することが重要である」とした上で、「保健所の整備」について、「都道府県の設置する保健所の所管区域は、保健医療に係る施策と社会福祉に係る施策との有機的な連携を図るため、二次医療圏・・・又は介護保険法(平成九年法律第百二十三号)第百十八条第二項に規定する区域とおおむね一致した区域とすることを原則として定めることが必要であること」といった「考え方に基づき、地域の特性を踏まえつつ規模の拡大並びに施設及び設備の充実を図ること」等としているところであり、これを受け、都道府県等においては、地域の特性を踏まえつつ保健所の整備を行っているものと承知している。
4 公衆衛生を担う保健所の機能低下という実態を招きながら、緊急事態が発生したことを理由として、平常業務としての国民生活基礎調査を中止することは、行政側の一方的な都合であり、国民の理解を得られないのではないか。
4について
令和二年における本調査を行わないこととした理由及びこうした判断に至った経緯並びに都道府県等における保健所の整備については、二について及び三についてで述べたとおりであり、「緊急事態が発生したことを理由として、平常業務としての国民生活基礎調査を中止することは、行政側の一方的な都合」との御指摘は当たらないと考えている。
5 今後想定される第二波、第三波による緊急時に、保健所の機能を十分に果たすためには、日常からの人的・物的体制整備が不可欠である。地域の公衆衛生を支える公的機関として、新生児指導や高齢者の健康増進などの保健活動を担う医師や保健師の確保を急ぎ、保健所機能の強化を図るべきと考えるがどうか。
5について
政府としては、地域保健対策に係る人材を確保することは重要であると考えており、基本指針においては、当該人材の確保について、「都道府県、政令市及び特別区は、地域における健康危機管理体制の充実等の観点から、保健所における医師の配置に当たっては、専任の保健所長を置くように努める等の所管区域の状況に応じた適切な措置を講じるように努めること」、「都道府県は、事業の将来的な見通しの下に、精神保健福祉士を含む」地域保健法施行令(昭和二十三年政令第七十七号)「第五条に規定する職員の継続的な確保に努め、地域保健対策の推進に支障を来すことがないように配慮すること」等としているところである。これを受け、都道府県等においては、所管区域の状況に応じた適切な措置を講じているものと承知しているところ、政府としては、引き続き、都道府県等に対する必要な支援を行っていきたいと考えている。
6 消費者物価指数のもとになる、総務省「小売物価統計調査」は調査員による対面調査から一部を電話調査に変更して実施される。また、同省「労働力調査」「家計調査」では、郵送を可とした。
現在、厚生労働省が科研費補助金事業や委託調査事業等で調査・研究を委託している機関は相当数あると認識している。基礎的な統計資料に空白を作ってはならない。初めから中止ありきではなく、保健所に替わる調査機関を選定することは十分可能と考えるがどうか。
6について
令和二年における本調査を行わないこととした理由については、二についてで述べたとおりであり、「初めから中止ありき」との御指摘は当たらないと考えている。
以 上