2021/02/04

令和3年1月19日に阿部知子が提出した「カーボンニュートラルに矛盾する容量市場に関する質問主意書」への答弁書が閣議決定されました。

令和3年1月19日に阿部知子が提出した「カーボンニュートラルに矛盾する容量市場に関する質問主意書」への答弁書が閣議決定されました。

 

政府は現在の「容量市場」に問題があること自体は認識し、「見直す」との答弁を繰り返しています。しかし、炭素規制基準や情報公開については後ろ向きです。

質問全文と回答の概要(赤字)は以下の通りです。

・質問主意書はこちら

・政府答弁はこちら

カーボンニュートラルに矛盾する容量市場に関する質問主意書

提出者  阿部知子


 すべての電気事業者に加入義務のある経済産業省の認可法人「電力広域的運営推進機関」(以後、「OCCTO」)は、二〇二〇年九月十四日に、二〇二四年度分の容量市場メインオークション約定結果を発表した。
 約定総容量(全国)は一億六千七百六十九万キロワット(kW)で、約定価格は一kWあたり一万四千百三十七円、総額は約一兆六千億円で、落札した応札者は四年後の電力を供給することになっている。
 その翌十月二十六日の所信表明演説で菅義偉首相は、二〇五〇年までのカーボンニュートラルの実現を宣言したが、この応札と落札結果はカーボンニュートラルとは矛盾するため、以下質問する。

一 OCCTOが進める「容量市場」は、発送電分離が進んできた米国および欧州などで、安定供給のための予備力を維持・新設するために導入されてきた仕組みである「容量メカニズム」の一類型である。
 そもそも、容量メカニズムが不要であるとして、発電量(kWh)を取引する市場(以後、「エネルギーのみ市場」)を中心に対応している米国テキサス州、カリフォルニア州などの例もある。
 1 政府は、容量メカニズムを導入せず、エネルギーのみ市場で対応する利点と欠点をどのように考えるか。
 2 政府は、エネルギーのみ市場による対応と容量市場導入との比較検討は行ったのか。行ったとすれば、その結果をどのように評価したのか。行っていないのであれば、改めて行うべきではないか。


二 容量メカニズムを導入する場合でも、さまざまな種類の仕組みがある。例えば、ドイツのように、容量市場よりも経済合理的かつ再生可能エネルギーの導入に有利という理由から、緊急時のための予備的な発電施設の容量を、最大需要の五%を上限に戦略的に確保して、通常は稼働を停止しておく仕組みを導入した例もある。
 1 日本の電力市場には特異性があり、旧一般電気事業者が分社化されたが、いわば旧自社内で発電と小売りが取引をし、それが電力供給の八割超を占めている。この特異性に鑑みると、ほぼ最大需要の発電施設容量を対象にする集中型の容量市場は公平性を欠いているため適切ではないのではないか。
 2 政府は、ドイツ型の戦略的予備力を導入する利点と欠点をどのように考えるか。現行制度と戦略的予備力との比較検討は行ったのか。行ったとすれば、その結果をどのように評価したのか。行っていないのであれば、改めて行うべきではないか。

 

■答弁【一及び二について】

海外の様々な制度を比較し、政府において十分な検討を行った結果、国全体として、必要となる供給力を市場を通じて効率的に確保する観点から、お尋ねの「容量市場」に係る現行の制度を導入することとした。

米国のテキサス州などでとられている、エネルギー市場のみで対応する手法については、いつどのような電力価格の高騰が起こるのか予想ができず発電事業者の投資回収の予見可能性が十分に確保できないという問題がある。またドイツなどでとられている、戦略的予備力を確保するという手法においては国全体が必要とする供給力を確保するものではなく、緊急時に不足すると見込まれる電源を廃止させずに確保するめの制度であると考えられる。

我が国で導入された「容量市場」は、あらゆる発電所を公平に扱っており、御指摘の「特異性」を考慮しても、公平性を欠くものと考えてはいない。


三 二〇二四年度分の約定結果を見ると、応札容量は、石炭、LNG、石油など火力発電所が約七十五%を占めている。これでは、菅首相のカーボンニュートラル宣言は絵に書いた餅である。
 1 脱炭素化の動きを鈍化させる性質が明らかとなった容量市場をどのような仕組みに見直すとしても、欧州連合やイギリスのように炭素規制基準を課すべきではないか。
 2 政府は、炭素規制基準を導入する利点と欠点をどのように考えるか。


四 容量市場は電気事業法第二十八条の四に基づいて設立されたOCCTOが、第二十八条の四十一に基づく「業務規程」で定めて開設したものである。この業務規程は、資源エネルギー庁電力・ガス事業部政策課によれば、二〇一九年三~四月に意見募集を行ったのち、OCCTOの総会での決議、電力・ガス取引監視等委員会の意見聴取を経て、同年七月一日付けで経済産業大臣の認可を受けたものだという。
 1 経済産業大臣の認可は一年半前のものであり、菅首相のカーボンニュートラル宣言にはそぐわないことが明確になった今、直ちに見直しが必要ではないか。

 

■答弁【三及び四の1について】

 お尋ねの「容量市場」については、オークションを通じて供給力を確実に確保する制度であるが、令和2年7月に実施した第一回オークションの結果を踏まえ、同年10月に菅内閣総理大臣が行った、2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指すという宣言との整合性確保の方策を含め、現在、制度の見直しを行っている。

 

 2 OCCTOが業務規程で定める容量市場が、政府方針と矛盾した結果を出した際に、政府はどのような権限で、何を根拠にどのように容量市場を統制するのか。
 3 現行制度では、「容量市場」という文言は直接的にはいかなる法令にも位置づけられていない。炭素規制基準を設ける上では、容量市場が法令に位置づけがないことは致命的な制度的欠陥ではないか。

 

■答弁【四の2及び3について】

 お尋ねの「容量市場」については、現在、制度の見直しを行っている。また、経済産業大臣は、電気事業法第28条の51の規定に基づき、電力広域的運営推進機関に対し、監督上必要な命令を行うことができる。


五 二〇二四年度分の約定結果を見ると、火力、原子力を含む「安定電源」と区分される電源が九割以上を占めている。政府が目指す再生可能エネルギー主力電源化の大宗は、自然変動電源である太陽光発電と風力発電であり、長期固定電源である原発の発電容量を確保するための維持管理費を折り込むことは、再生可能エネルギー主力電源化に反するのではないか。


六 応札容量のうち「安定電源」に区分された原子力発電は全国で四・二%だった。これは、原子力発電事業者自らが、原子力発電を、将来の電力の安定供給には寄与しないと判断したとも考えられるが、政府の見解を明らかにされたい。

 

■答弁【五及び六について】

お尋ねの「容量市場」については、オークションの開催から4年後の電気の安定供給に必要な供給力を確実に確保するための制度であり、再生可能エネルギーの主力電源化に反するものではない。

また、御指摘の「2040年度分の約定結果」は、「容量市場」の制度の趣旨を踏まえ、電力広域的運営推進機関が主催するオークションで発電事業者が適切に応札した結果を反映したものであると承知している。

 

七 二〇二四年度分の約定結果を見ると、応札結果については発電方式別に集計・公表が行われているが、落札結果については「安定電源」、「変動電源(単独)」、「変動電源(アグリゲート)」、「発動指令電源」の四区分にまとめてしか、集計・公表を行っていない。
 1 個別発電所ごとの情報は、応札結果でも落札結果でも明らかにしていないが、このような不透明な公表の仕方では、市場の健全性と公正性が保てない。最終的にコストを負担することになる電力消費者への説明責任の観点から問題ではないか。事業者名、発電所名、電源種別および容量等を公表すべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
 2 OCCTOは二〇二四年度分の約定結果資料で「容量市場の在り方等に関する検討会において、市場競争の状況の検証のため、事業者の経営情報(個別電源の応札価格など)の扱いや個社情報が特定されないようにすること等に留意した集計方法をとりつつ、オークション結果の集計・公表を行うこととされた」と説明しているが、「個社情報が特定」されることで、誰にどのような不利益があるのか。その不利益は市場の透明性よりも尊重されるものなのか。政府の見解を問う。

 

■答弁【七について】

 お尋ねの「オークション結果」については、「容量市場」の制度の透明性を確保し、入札結果に対する関係事業者等の理解と納得を得るため、できる限り公表していくことは重要である一方、個別の発電所ごとの結果を広く公表した場合、発電事業者の競争上の利益を損なう可能性があると認識している。なお、情報公開の在り方については、制度の透明性や信頼性確保の必要性や、事業者の利益保護の観点から、現在、更なる検討を行っている。

 

八 エネルギー政策においては省エネルギー・節電・エネルギー効率化(以後、「省エネ」)が最優先されるべきである。
 1 容量市場の約定総容量(全国)一億六千七百六十九万キロワット(kW)について、政府は省エネの観点からどのように評価しているか。
 2 OCCTOは約定総容量の前提となる電力需要を計算する際に、「発動指令電源」に区分した需要側応答(DR)以外の省エネをどのように考慮し、それ以上の省エネはなぜできないとどのように判断したか。政府の把握するところを答えられたい。
 3 各地域でエネルギー需給は異なっている。OCCTOは一般送配電事業者に対する融通指示、発電事業者及び小売電気事業者に対する発電に関する指示、地域間連系線の増強工事や運用容量拡大、蓄電池の導入などを、電力需要を精査する上で、どのように考慮したのか、政府の把握するところを答えられたい。

 

■答弁【八について】

お尋ねの「容量市場の約定総容量」について、「省エネの観点からどのように評価しているか」の趣旨が必ずしも明らかではないが、電力広域的運営推進機関が、容量市場オークションの基礎となる電力需要を計算するに当たり、一般送配電事業者からのヒアリング等を通じ、省エネルギーの取組みについても考慮しているものと認識している。


九 再生可能エネルギーを含め安定供給のために採用できるすべての手法等を精査した後、欧州連合やイギリスのように炭素規制基準を課した上で、ドイツ型の戦略的予備力を参考に、異常気象など緊急時以外の平時は石炭火力を停止する制度とすることにどのような不都合があるか、政府の見解を明らかにされたい。

 

■答弁【九について】

お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、次回の「容量市場」のオークションに向けて、現在、制度の見直しの検討を行っているところである。


十 経産省の「総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会 電力広域的運営推進機関検証ワーキンググループ」第一回(二〇二〇年七月二十九日)資料五によれば、OCCTOについては「組織の決定の多くは理事会で行われることが多く、その決定権をもつ理事には特に中立性が求められる」としている。
 しかし、OCCTOの理事会役員七名のうち三名は発電・送電・小売事業者出身理事で、事務局職員百六十六名のうち九十八名、約六割も旧一般電気事業者と電源開発株式会社からの出向者が占めている。
 1 この陣容は、利益相反が生じるのではないかと疑わざるを得ず、是正が必要と考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
 2 OCCTOの業務規程を認可した経済産業大臣は、旧一般電力事業者に有利な火力発電の維持更新に大きく寄与する結果となったことに鑑み、OCCTOの陣容および容量市場について、抜本的な見直しをする必要があるのではないか。

 

■答弁【十について】

 電力広域的運営推進機関の役職員については、利益相反防止の観点から、業務遂行上、特定の利害関係者に利益又は不利益となる行動その他の差別的な扱いをしてはならないといった行動規範を遵守することが、電力広域的運営推進機関の定款及び業務規程において定められており、現在の電力広域的運営推進機関の役職員の構成を見直す必要はないと考えている。

 なお、「容量市場」に係る制度については、現在、次回のオークションに向けて、見直しの検討を行っているところである。