2021/04/06

食品香料ジアセチルによる呼吸器疾患の労災認定に関する質問主意書に関する答弁書が届きました。

阿部とも子が令和三年三月八日提出の食品香料ジアセチルによる呼吸器疾患の労災認定に関する質問主意書に対する答弁書が届きました。

食品香料ジアセチルのばく露による閉塞性肺疾患について、厚生労働省は二〇二〇年十二月、日本で初となる労災認定を行った。労災申請は二〇一八年十二月六日にされ、認定まで丸二年を要したことになる。
 労働者災害補償保険が、「労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護」(労働者災害補償保険法第一条)を目的とする制度であることを踏まえ、以下、質問する。

一 今回の労災事例は食品香料製造工場において合成香料を製造中に発生したものである。労災認定後、この事業場に対して作業環境の改善や呼吸保護具の着用等、再発防止のための安全対策の指導はどのように行われたのか。
二 この事業場では認定当事者以外にも二十人ほどが作業に従事しており、中には咳が続くなどの呼吸器症状が見られた労働者の存在も証言されている。これらの労働者及び退職者に対する健康調査および肺機能調査等は実施されたのか。

 

一及び二について
 お尋ねは個別の事業場に対する指導内容に関するものと考えられるところ、これを公にすることにより、労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)又はこれに基づく命令を遵守させるための監督指導等の事務の性質上当該事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから、お答えは差し控える。


三 近年、日本でも食品香料としてジアセチルは多用されている。日本香料工業会によれば、二〇〇五年現在、国内では四十二社が年間計一・六トンのジアセチルを使って香料を製造しているが、厚労省は直近の製造事業者数、製造量、労働者数を把握しているか。

 

三について
 お尋ねの「労働者数」については把握していないが、「製造事業者数」及び「製造量」に関しては、平成二十八年度厚生労働科学研究費補助金食品の安全確保推進研究事業により、日本香料工業会が平成二十九年三月に取りまとめた「香料使用量に関わる調査研究」によれば、平成二十七年に国内で食品香料の製造に二・三-ブタンジオン(別名ジアセチル)(以下「二・三-ブタンジオン」という。)を使用した会社数は三十五社であり、二・三-ブタンジオンの使用量は二千三百七十九・五八キログラムであると承知している。


四 今回の労災認定事例について、ジアセチルを扱う関連業界等に対して早急に注意喚起を行うとともに、ばく露の低減対策の指導、労働者及び退職者について健康調査を実施する必要があると考えるがどうか。
五 ジアセチルを扱う工場、事業所は全国にあると考えられる。厚労省は二〇一七年八月に、ジアセチルを労働安全衛生法施行令別表第九「名称等を表示し、又は通知すべき危険物及び有害物」に指定している(厚生労働省・基発〇八〇三第六号)が、労働現場における管理の実態把握等適切なリスク管理や作業環境の改善に向けた対策は、具体的にどのように講じられたのか。

 

四及び五について
 御指摘の「労災認定事例」は現時点では個別の事業場における事案と承知しており、お尋ねの「注意喚起」を実施する必要がある状況にはないと認識している。お尋ねの「ばく露の低減対策の指導、労働者及び退職者について健康調査を実施する」ことについては、二・三-ブタンジオンについて、労働安全衛生法第五十七条の三第一項の規定に基づく危険性又は有害性等の調査及び労働安全衛生規則(昭和四十七年労働省令第三十二号)第三十四条の二の八の規定に基づく当該調査の結果等の労働者への周知が事業者に義務付けられているほか、同法第五十七条の三第二項の規定に基づき、事業者は、同条第一項の規定に基づく調査の結果に基づいて、同法又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるよう努めなければならないとされていることから、これらについて引き続きその周知を図ることにより対応してまいりたい。
 また、労働基準監督署において、これらの規定に基づき二・三-ブタンジオンが適切に取り扱われているかどうかを必要に応じて確認し、法令違反がある場合には事業場に対して必要な監督指導等を行うこととしている。


六 厚労省のホームページ「職場のあんぜんサイト」上で公開されている安全データシートでは、ジアセチルの特定標的臓器毒性(反復ばく露)に関しては、過去の「ポップコーン製造工場で混合作業を行う作業者」の海外事例が言及されているのみである。今回の認定事例を新たな根拠データとして追加記載すべきではないか。なぜ早急に見直さないのか。

 

六について
 御指摘の「認定事例」に関しては、現時点において二・三-ブタンジオンにさらされる業務と疾病との因果関係が必ずしも確立されておらず、お尋ねの厚生労働省ホームページの「職場のあんぜんサイト」において公開している二・三-ブタンジオンに係る「安全データシート」において「特定標的臓器毒性(反復ばく露)」の「根拠データ」として追加することは適当ではないと考えている。なお、「安全データシート」については、今後も必要に応じて改訂を検討してまいりたい。


七 厚労省はMOCA(三・三′-ジクロロ-四・四′-ジアミノジフェニルメタン)を原因とする膀胱がんの事案について、事案発生を認識した二〇一六年の段階で、「三・三′-ジクロロ-四・四′-ジアミノジフェニルメタン(MOCA)による健康障害の防止対策について」(基安発〇九二一第一号)を発出し、関連事業団体宛てに、①法令に基づくばく露防止措置等の徹底、②膀胱がんに関する検査の実施などを要請している。
 さらに、複数の被災労働者からの労災申請について、二〇二〇年十二月に専門家検討会での検討結果をホームページで公開するとともに労災認定基準を示し、MOCAを取り扱う事業場に対する労災請求勧奨まで行っている。
 MOCAによる膀胱がんも、ジアセチルによる閉塞性肺疾患も、同じく昨年十二月に国内初の労災認定事例となったが、ジアセチルにMOCAと同様の対策をとっていない理由は何か。

 

七について
 御指摘の「三・三’-ジクロロ-四・四’-ジアミノジフェニルメタン(MOCA)による健康障害の防止対策について」(平成二十八年九月二十一日付け基安発〇九二一第一号厚生労働省労働基準局安全衛生部長通知)については、化成品等の製造事業場で複数の労働者及び退職者に三・三’-ジクロロ-四・四’-ジアミノジフェニルメタンによる健康障害が発生したことが判明したこと、また、当該化学物質を取り扱う業務に従事する労働者に係る特殊健康診断の項目に膀胱がんに関する項目が含まれていなかったこと等から発出したものであり、二・三-ブタンジオンについて対応する必要が生じた場合には、同様の対策を講ずることを検討してまいりたい。
 また、御指摘の「ジアセチルによる閉塞性肺疾患」については、現時点において二・三-ブタンジオンにさらされる業務と疾病との因果関係が必ずしも確立されていないため、労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)に基づく保険給付の支給の決定又は不支給の決定(以下「労災認定」という。)に係る基準を示すことは現時点では考えていない。


八 近年、国内で先例のない化学物質のばく露による新たな職業病の労災事案が相次いでいる。より迅速かつ適切に労災認定が行われるよう、ジアセチルを起因とする疾病を労働基準法施行規則別表第一の二に掲げる「化学物質等による疾病」に定め、迅速な労働災害の認定に繋げるよう検討されたい。また、申請から認定まで二年以上も費やしている実態は、労働者災害補償保険法の本旨に反している。本省協議の体制や専門家による検討会のあり方を見直す必要があると考えるが、これらについてどのように認識し、どう取り組まれているのか。

 

八について
 労働基準法施行規則(昭和二十二年厚生省令第二十三号)別表第一の二に具体的に規定されている疾病は、医学的知見により業務と疾病との因果関係が確立されているものであるが、御指摘の「ジアセチルを起因とする疾病」については、現時点において二・三-ブタンジオンにさらされる業務と疾病との因果関係が必ずしも確立されていないため、同令に規定することは現時点では考えていない。
 また、業務と疾病との因果関係が必ずしも確立されていない疾病に係る労災認定に当たっては、個別の事案に応じて、業務と疾病との因果関係を慎重かつ適切に判断する必要があるため、十分な調査を必要とするところであるが、今後とも迅速かつ適正な処理に努めてまいりたい。