2021/05/19

5月14日「医療事故調査制度」の運用改善と見直しに関する質問主意書に対する答弁が閣議決定されました。

  医療事故調査制度の運用改善と見直しに関する質問主意書

 

 医療事故調査制度は、二〇一四年六月十八日に成立した改正医療法に盛り込まれ、翌二〇一五年十月の施行に伴いスタートした制度である。医療事故が発生した医療機関において「管理者が医療事故に該当すると判断したとき」は院内調査を行い、その調査報告を民間の第三者機関である医療事故調査・支援センター(以下、センター)が収集・分析することで再発防止と医療の安全を確保するものとされており、いわば医療機関の自主・自立性を重視した制度となっている。

 以来、五年半が経過したが、果たして当該制度は被害者や遺族をはじめとする国民の期待に応えうる実態となっているだろうか。昨今メディアで伝えられるのは、遺族が申し入れても調査されない、調査しても十分な説明もされないという実態ばかりである。

 当初予想された事故報告件数ともかけ離れており、医療被害者の支援に取り組む市民団体からも、改正医療法で目指した医療安全の確立・医療事故防止の実現にはほど遠いと、制度の抜本的な改革を望む声が上がっている。

 これらを踏まえて以下、質問する

(以下答弁は赤字

一 医療事故調査制度がスタートしてからすでに五年半が経過したが、二〇二一年三月末時点の医療事故調査制度の現況報告によれば、事故報告件数は二千十八件である。厚生労働省は、医療事故報告数の推計を年間千三百件から二千件としていたが、実際は五年半でようやく二千件、年間に直すと約三百件である。

 当初の推計と実数の乖離について、試算根拠を示して説明されたい。

 

一について

 御指摘の「医療事故報告数の推計」については、医療法施行規則(昭和二十三年厚生省令第五十号。以下「規則」という。)第十二条の規定による厚生労働大臣の登録を受けた機関である公益財団法人日本医療機能評価機構が同条の規定に基づき実施する事故等分析事業において平成十七年から平成二十三年までの各年に報告された医療機関における死亡事故件数(以下「死亡事故件数」という。)を当該年において当該事業により報告を行った医療機関の病床数と全国の医療機関の病床数の比で割り戻した数並びに平成二十年度厚生労働科学研究費補助金による「診療行為に関連した死亡の届出様式及び医療事故の情報処理システムの開発に関する研究」において行われた医療機関に対するアンケート調査において報告された報告事例死亡件数(以下「報告事例死亡件数」という。)を当該アンケート調査により報告を行った医療機関の病床数と全国の医療機関の病床数の比で割り戻した数及び当該アンケート調査により報告を行った医療機関の退院者数と全国の医療機関の退院者数の比で割り戻した数を根拠に、平成二十五年に厚生労働省において推計したものである。

 当該推計については、同年五月二十九日に開催された「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」において、議論の参考とするため、同省が入手可能な情報を基に推計したものを示したものであるところ、当該推計の基となる死亡事故件数及び報告事例死亡件数は、規則第九条の二十の二第一項第十四号に規定する事故等事案の定義に基づき報告されたものであり、医療法(昭和二十三年法律第二百五号。以下「法」という。)の規定に基づき実施されている医療事故調査制度(以下「医療事故調査制度」という。)において法第六条の十第一項の規定に基づく医療事故調査・支援センター(法第六条の十五第一項に規定する医療事故調査・支援センターをいう。以下「センター」という。)への報告の対象とされている法第六条の十第一項に規定する医療事故(以下「医療事故」という。)とは、その定義が異なること等から、お尋ねの「当初の推計と実数」について、一概に比較することは困難である。

 

二 二〇二一年三月に出された「医療事故調査・支援センター二〇二〇年年報」(以下、年報)では、二〇二〇年に医療機関が「医療事故」に該当するか否かを相談し、実施されたセンター合議は六十件であった。そのうち「医療事故として報告を推奨する」と医療機関に助言した件数は三十五件だったが、助言に従って報告された件数は二十一件(六十・〇%)、報告されなかった件数は十四件(四十・〇%)であった。ちなみに報告されなかった数は、二〇一六年は四件(十二・五%)、二〇一七年は十八件(四十七・四%)、二〇一八年は九件(二十四・三%)、二〇一九年は十四件(三十七・八%)とその割合は増える傾向にある。

 センター合議に基づく助言を無視して医療事故調査を実施しないことは、結果として多くの事例が調査されないまま放置されることになり、医療安全と再発防止を目的とする本制度の否定につながるものである。こうした事例が少なくない実態について政府はどのように認識しているのか。

 

二、五及び六について

 医療事故調査制度は、法及び規則の規定等に基づき、医療機関が医療事故に該当するか否かを自主的に判断し、自ら医療事故の原因を明らかにするために必要な調査(以下「医療事故調査」という。)を行う仕組みであり、センターによる医療事故調査の実施に関する助言があった事例について最終的に医療事故調査を実施するか否かについては、各医療機関において、当該助言に加え、当該医療機関内での調査や検証等を踏まえて適切に判断されているものと承知している。また、御指摘のように「民事責任を追及される可能性、紛争となる可能性、訴訟係属」を理由として医療事故調査を行わないことについては、法第六条の十一第一項の規定に基づき、医療機関は医療事故が発生した場合には速やかに医療事故調査を行わなければならないことから、不適切であると考えている。

 厚生労働省としては、各医療機関において適切な判断が行われるよう、医療事故調査制度の趣旨・目的、医療事故の定義等の周知徹底が重要であると考えており、「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律の一部の施行(医療事故調査制度)について」(平成二十七年五月八日付け医政発〇五〇八第一号厚生労働省医政局長通知)において医療事故の定義等について分かりやすく示すとともに、研修等を通じて医療機関への継続的な周知に努めているところである。とりわけ、医療事故調査制度の運用に当たっては、医療事故調査に関する業務に携わる者のみならず、各医療機関の管理者が制度に関する正確な知識や理解を有していることが重要であることから、「医療事故調査制度に関する管理者向け研修への参加の推進等について(協力依頼)」(令和三年三月三日付け厚生労働省政局総務課医療安全推進室事務連絡)等により、医療機関の管理者に研修の積極的な受講を重ねて促しているところであり、引き続き、医療機関に対する周知徹底に努めてまいりたい。

 

 

三 遺族等からの相談内容を見ると、「医療事故に該当するか否かの判断」が七十二件(遺族などからの相談全体の七十五・〇%)で、依然として大部分を占めている。遺族等から相談があった場合は、センター合議をしたうえで報告すべき医療事故と疑われる場合には、医療機関に対して院内調査を勧告し、調査が行われない場合にはセンターが独自に調査できるよう、権限の強化を図るべきと考えるがどうか。

三について

二、五及び六についてでお答えしたとおり、医療事故調査制度は、医療機関が医療事故に該当するか否かを自主的に判断し、自ら医療事故調査を行う仕組みであるが、「医療法施行規則の一部を改正する省令の施行に伴う留意事項等について」(平成二十八年六月二十四日付け医政総発〇六二四第一号厚生労働省医政局総務課長通知。以下「総務課長通知」という。)において、遺族から医療事故が発生したのではないかという申出があり、医療機関が医療事故には該当しないと判断した場合には、遺族に対してその理由を分かりやすく説明することとしているところ、医療機関において適切な対応が行われるよう、引き続き、総務課長通知の内容について必要な周知を図っていくことが重要であると考えており、御指摘のようなセンターの権限の強化については、医療事故調査制度の趣旨にも照らして、慎重に検討すべきものと考えている。

 

四 医療機関による院内調査とセンターによる調査が実施された場合において、双方の調査結果に相違があったときには、センターは医療機関に対して、上記の相違点等に関する補充の院内調査を実施し、その結果をセンター及び遺族等に報告することを指導、勧告できるようにすべきと考えるがどうか。

四について

センターによる法第六条の十七第一項の調査の結果が医療機関による医療事故調査の結果と異なる場合には、当該医療機関においては、法第六条の十二の規定に基づき、当該センターによる調査の結果を踏まえた医療の安全を確保するための適切な対応が行われるものと考えている。医療事故調査制度は、医療機関が医療事故に該当するか否かを自主的に判断し、自ら医療事故調査を行う仕組みであること、センターは、法第六条の十五第一項の規定により医療機関が行う医療事故調査への支援を行うこととされていること等を踏まえれば、御指摘のようなセンターの権限の強化については、慎重に検討すべきものと考えている。

 

五 報告対象となる医療事故は、「医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産」のうち、「管理者が予期しなかったもの」(医療法第六条の十)に限定されているところであるが、「予期の可否判断」については、当該患者の臨床経過等を踏まえ、個別具体的に判断すべきである。ところが事前の説明書に手術の合併症を挙げ、全て管理者が予期していたものとして事故調査を回避する医療機関があると聞くが、改めて制度の趣旨・目的はもちろん、調査対象となる「医療事故」の定義を周知徹底すべきと考えるがどうか

六 患者団体の調査では、提訴がなされた後に当該患者が死亡した為、遺族が事故調査の開始を求めたところ、訴訟が係属していることを理由に、調査を行わないと回答した事例があった。しかし、医療事故調査を開始する要件は、医療法第六条の十に定義されているところであり、訴訟事実が、調査を行わない、あるいは中断する事由とならないことは明白である。ところが、実際には、民事責任を追及される可能性、紛争となる可能性、訴訟係属を理由として調査を行わないとの対応をとっている医療機関が依然存在することについて、政府の見解を示されたい。

 

七 年報では、二〇二〇年の院内調査報告件数三百五十五件のうち、解剖の実施件数は百三十一件(三十六・九%)であった。うち、病理解剖百一件(七十七・一%)、司法解剖二十九件(二十二・一%)であり、Ai(死亡時画像診断)の実施件数は百二十二件(三十四・四%)であった。どちらも四割に満たないばかりか、解剖例の二割は事件性が疑われる司法解剖である。

 死亡の原因究明には解剖が有用であることは論をまたない。院内調査全例に解剖、あるいは最低でもAiの実施を義務付けるべきと考えるがどうか。

七について

医療機関において、センターへの報告の対象とされている医療事故が発生した際、解剖等を行わなくても死亡に至るまでの診療経過等によって死因を明らかにすることができる場合、遺族が解剖に同意しない場合等があるため、お尋ねの「院内調査全例に解剖、あるいは最低でもAiの実施を義務付ける」ことは困難であると考えている。

 

八 事故の経過において、患者側と医療機関側の記録や認識が異なっている場合が少なくないが、医療機関の主張する事実のみを前提にして事故調査を行うことは事実誤認を招く。医療事故が疑われた時に、カルテや診療記録を示して患者側に説明し、患者等の意見を聴取する仕組みを院内調査に先立ち、医療機関に義務付けるべきと考えるがどうか。

 

八について

お尋ねの「患者等の意見を聴取する仕組み」については、医療事故調査制度において、法第六条の十第二項の規定に基づき、医療機関は、センターへの医療事故の報告に当たり、あらかじめ、遺族に対し、規則第一条の十の三第二項各号に規定する事項を説明しなければならないこととされており、その説明の際に、遺族の意見を聴取しているものと考えている。また、総務課長通知においても、遺族から医療事故が発生したのではないかという申出があり、医療機関が医療事故には該当しないと判断した場合には、遺族に対してその理由を分かりやすく説明することとしているところであり、この説明の際にも、遺族の意見を聴取しているものと考えている。

 

九 センターは、収集した院内調査報告書を整理・分析して、再発防止策として提言をまとめ、公表しているが、個別の院内調査報告書及びセンターが実施した調査報告書は公表されていない。しかし再発防止・医療安全のために有意義な情報であり、それらについても国民が共有することが望ましい。個人や医療機関等が特定されないように配慮したうえで、要約版を公表するシステムを創設すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

九について

医療事故の再発防止に関する普及啓発を図るためには、センターにおいて、個別事例の類型化等により集積した情報について傾向や優先順位を勘案して行った分析に基づき、全体として得られた知見を公表することが重要であると考えており、お尋ねの「要約版を公表するシステムを創設」することは考えていないが、引き続き、医療機関をはじめ広く国民に対して適切な情報提供に取り組んでまいりたい。

 

十 年報をまとめた、一般社団法人日本医療安全調査機構理事長の髙久史麿氏は、冒頭挨拶で「本制度は、医療事故が発生した医療機関が自ら調査を行い、原因を究明することで医療の安全の確保と質の向上を図ることを基本としており、医療への信頼が基盤となっています。この信頼に応えるために各医療機関は、院内調査の公正性、専門性を十分に考慮して質の高い院内調査を行う必要があります。」と述べている。

十について

医療事故調査制度は、医療関係者、患者等による長い議論を経て制度化されたものであることから、現行制度を適切に運用していくことが重要であると考えており、当該制度の適切な運用が図られるよう、その趣旨・目的等について周知徹底を図るとともに、センターにおける関係者の意見を踏まえた運用面の改善に対する必要な支援等を行ってまいりたい。