家庭に雇われて家事を担ういわゆる家政婦さんは「家事使用人」と呼ばれ、労働基準法が適用されません。寝たきりの高齢者のいる家に一週間泊まり込んで家事と介護にあたった68歳の女性が仕事を終えた日に急死し、家族が労災を申請しましたが認められませんでした。国の処分取り消しを求めて起こした裁判も、今年9月に訴えが退けられました。厚生労働大臣は家事労働者の実態調査をすると言っていますが、法改正には慎重な姿勢です。「家事使用人」にも労基法を適用するよう法改正を求め、質問主意書を提出しました。
令和四年十一月二日提出
質問第二三号
「家事使用人」が労働基準法の適用外であることに関する質問主意書
提出者 阿部知子
長時間の家事労働の末に亡くなった当時六十八歳の女性が過労死だと認められなかったのは不当だとして女性の夫が国の処分取り消しを求めた裁判で、東京地裁は二〇二二年九月二十九日、訴えを退ける判決を出した。判決によると、女性は二〇一五年に家政婦および訪問介護ヘルパーとして登録していた会社の斡旋を受け、寝たきりの高齢者がいる家庭に一週間泊まり込み、同居人の指示で介護と家事に従事した後、仕事を終えた日の夜に急死した。女性の夫は、妻がほとんど休みなく業務していたとして労災を申請したが認められず、二〇二〇年三月に国の処分取り消しを求めて提訴した。
判決では、個人宅と直接契約を結んで家事業務を担う「家事使用人」は労働基準法第百十六条第二項の規定によって同法の適用から除外されるため、睡眠時間を除いた一日十九時間の業務時間のうち家事の時間は労働時間に算入せず、介護にあたった四時間半のみを労働時間と認定し、「過重業務していたとは認められない」とした。
この判決を踏まえ、以下質問する。
一 加藤勝信厚生労働大臣は十月七日の記者会見で「個人の家庭の指揮命令の下で家事に従事している者は通常の労働関係と異なり、国家による監督・規制が不適当であるということで今の制度になっている。そうした考え方の経緯・実態も踏まえた検討が必要」だとして、労働基準法における家事使用人の除外規定の廃止に否定的な姿勢を示した。なぜ、個人の家庭の指揮命令の下で家事に従事している者は通常の労働関係と異なるのか。その根拠を示されたい。
御指摘の「個人の家庭の指揮命令の下で家事に従事している者」については、その労働が、雇主の家庭内において、雇主の指揮命令の下で行われ、雇主及びその家族の私生活と密着している点で、指揮命令関係が家庭の外にある労働関係(以下「通常の労働関係」という。)とは異なるものと考えている。
二 労働省(当時)は一九八八年三月、「個人家庭における家事を事業として請け負う者に雇われて、その指揮命令の下に当該家事を行う者は家事使用人に該当しない」とする通達を出しており、家事代行サービス業者に雇用されて家庭に派遣されて家事労働に従事している場合は労働基準法が適用され、労働時間の上限規制や最低賃金の保障など、保護の対象となる。同じ家事労働に従事しているにもかかわらず、労働基準法が適用される人とされない人がいることになるが、その違いは何か。このことは憲法の定める「法の下の平等」に反するのではないかと思われる。見解を示されたい。
御指摘の通達については、「個人家庭における家事を事業として請け負う者に雇われて、その指揮命令の下に当該家事を行う者」が、「個人家庭における家事を事業として請け負う者」の指揮命令の下で労働に従事している点で、通常の労働関係と異ならないことから、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第百十六条第二項の家事使用人に該当しないものとしたものである。
これは、家事使用人については、通常の労働関係とは異なった特徴を有するものであり、国家による監督・規制が不適当である等の趣旨から、同項において、同法の適用除外とされていることを踏まえ、家事使用人に該当する者の範囲を明らかにしたものであり、「憲法の定める「法の下の平等」に反するのではないか」との御指摘は当たらないと考えている。
三 一九九三年に労働大臣(当時)の諮問機関「労働基準法研究会」が、企業に雇用される労働者が家庭で就労する場合は労働基準法の適用があることを引き合いに出し、労働基準法の適用除外とする特別の理由が乏しくなってきたとして、家事使用人の労働基準法適用除外の規定を廃止するよう提言した。その後、どのような検討がなされたのか。
労働基準法第百十六条第二項の規定による家事使用人に係る同法の適用除外については、平成五年五月に労働基準法研究会労働契約等法制部会において「労働基準法研究会報告「今後の労働契約等法制のあり方について」」が取りまとめられた後、中央労働基準審議会就業規則等部会においても同報告を踏まえた議論が行われたが、結論には至っていない。
四 加藤厚生労働大臣は十月十四日の記者会見で、家事使用人について実態調査を実施することを明らかにした。一部報道によると、調査は十月下旬から始めるとのことだが、既に調査は始まっているのか。いつごろをめどにまとめるのか。また、誰を対象に、どのような項目で、どのような手段を用いて調査を実施するのか。外部の調査機関の利用の有無も含め、具体的に答えられたい。
家事使用人の労働実態を把握することについては、現在、調査の開始及び取りまとめの時期、対象者、項目、手段、手法等について検討中である。
五 高齢者や働く女性が増える中、家事代行サービスの需要は伸び、マッチングアプリなどによって個人や家庭が家事労働者と直接雇用契約を結ぶケースは増加すると考えられる。すべての家事労働者が法によって保護されない社会は時代遅れであると言わざるを得ない。報道によると、国は実態調査の結果を踏まえ、来年度にも労働基準法の改正を視野に検討を始めるとのことだが、労働基準法第百十六条第二項は一日も早く削除すべきである。見解を示されたい。
二についてでお答えしたとおり、家事使用人については、通常の労働関係と異なった特徴を有するものであり、国家による監督・規制が不適当である等の趣旨から、労働基準法の適用除外とされているところ、同法第百十六条第二項の規定の在り方については、現在の家事使用人の労働実態を踏まえつつ、慎重な検討が必要であると考えている。
六 家事労働者の労働条件や労働環境に関しては世界的にも注視されており、二〇一一年六月に国際労働機関(ILO)総会で「家事労働者の適切な仕事に関する条約(家事労働者条約)」が採択された。しかし、それから十年以上たった今も、国はこの条約を批准していない。野村総合研究所が二〇一八年三月にまとめた「家事支援サービス業を取り巻く諸課題に係る調査研究」によれば、家事支援サービス業の市場規模は二〇二五年には二千億円程度から最大八千億円程度にまで拡大する可能性があると推計している。国家戦略特区の家事支援外国人受入事業に限って二〇一七年から受け入れている海外からの家事支援人材は今後も増えると予想される。このような状況において、条約を批准していないのは先進国として恥ずべきことである。一日も早く批准すべきと考えるが、見解を示されたい。
国際労働機関(以下「ILO」という。)において採択されたILO第百八十九号条約については、国内法制等との整合性について検討すべき点があることから、その批准については、慎重な検討が必要であると考えている。