2023/01/10

国保加入者の休業時所得保障としての出産一時金、傷病手当金等の支給に関する質問主意書&答弁書

「異次元の少子化対策」として子ども・子育て支援を前面に掲げる岸田総理。でも、正社員として雇用されている人に対して、非正規雇用者、自営業やフリーランスなどは、産休や育休はもとより、突然の病気、例えばコロナ感染で休業せざるを得ない場合もその間の生活保障はありません。

働き方によって社会保障に「格差」が生じ、安心して妊娠や子育てができない状況が続いています。様々な働き方に対応するための社会保障制度の再構築を質問主意書で質しました。

 

 

令和四年十二月二日提出
質問第四四号

国保加入者の休業時所得保障としての出産一時金、傷病手当金等の支給に関する質問主意書

 

提出者  阿部知子


 

 組合健保等の被用者保険では疾病や出産による休業中の所得保障として傷病手当金や出産手当金の制度がある。一方、市町村国保では任意給付とされ、条例の制定が必要なため実施市町村は現在のところゼロである。
 しかし国保加入の農業者や自営業、そして非正規雇用の労働者は、病気やケガをして仕事を休めば収入が途絶え、途端に生活が立ち行かなくなる。被用者だろうと自営業だろうと、仕事を休まざるを得ない間の所得保障は不可欠である。
 来年四月にこども家庭庁が発足するが、子どもが健やかに育つ環境を整えることは国家としての政策の基本であり、働き方の態様にかかわらず安心して出産・子育てができる体制を構築すべきである。
 こうした点を踏まえ、以下質問する。

一 社会保険制度調査会における議論の継承について
 昭和二十一年四月に社会保険制度調査会が発足、昭和二十二年十月に出された「社会保障制度要綱」は、新たに公布された日本国憲法の第二十五条に照らし合わせて、「健康にして文化的な国民の最低生活を保障する広汎な社会保障制度の確立」の必要性を訴えたものである。その中で、休業時所得保障としての傷病手当金と出産手当金について、「被用者」だけではなく、勤労及び事業により生活を営む「自営業」にも段階的に給付すべきことを厚生大臣に答申している。
 その内容は、「傷病に対しては療養の給付及び傷病手当金、廃疾に対しては廃疾年金、死亡に対しては葬祭料、寡婦年金、孤児年金、出産に対しては助産の給付、出産手当金、育児に対しては児童手当金、老令に対しては老令年金、失業に対しては失業手当金を給付する。」というものである。
 この答申が出された翌年の昭和二十三年十二月二十三日、社会保険制度調査会は廃止され、答申は七十余年経た現在も実現していない。この答申は昭和二十四年に発足した社会保障制度審議会にどのように継承され、現在の全世代型社会保障構築会議においてどのように評価されているのか。

 

一について
 お尋ねの「社会保障制度審議会に・・・評価されているのか」の意味するところが必ずしも明らかではないが、旧社会保障制度審議会における御指摘の「答申」についての議論の状況については、厚生労働省において調査した限りでは不明であり、また、全世代型社会保障構築会議における議論においては、これまで「答申」について特段の発言はなかった。


二 出産手当金について
 1 政府は現在、全世代型社会保障構築会議で「女性活躍」や「こどもまんなか」をうたい、働く女性が妊娠・出産・子育てにより社会的・経済的に被る不利益について、ようやく重い腰を上げて取り組む姿勢を見せている。報道によれば自営業者・フリーランス等への育児期間中の給付金制度の創設や国民健康保険加入者の、出産前後の四か月分の保険料の免除、子育て時短勤務者への給付などを検討しているとされる。
  ところが、出産時の所得保障としての出産手当金については何も言及がない。育児休業給付金については本年の通常国会で成立した改正雇用保険法の質疑においても、「子育て部門と連携し、子育て制度全体の中で検討する」という旨の大臣答弁があった。雇用保険や健康保険制度の枠内での検討にとどまらないとする前向きな答弁として評価するものである。そうであるならば、国保加入者の出産手当金についても検討すべきではないか。政府の見解を問う。
 2 令和三年五月二十日、参議院内閣委員会において、厚生労働省の榎本大臣官房審議官は、国保で任意給付に位置づけられている出産手当金を全国統一の制度とすることについて、国保には様々な就業形態の者が加入しているため、妥当な支給額の算出が難しいという趣旨の答弁をしている。しかし、前年の所得を基準に算出するなど、あらゆる方法を検討し、全国どこに住んでいても統一の制度として、国庫から財政支出すべきと考えるが政府の見解如何。

 

二について
 お尋ねの「検討すべきではないか」の意味するところが必ずしも明らかではないが、国民健康保険においては、被用者や自営業者等が加入しており、出産に際しての収入の喪失等の状況が多様であることから、御指摘の「国保加入者の出産手当金」については、条例又は規約の定めるところにより、各保険者の実情に応じた給付を行うことができることとしているところであり、また、御指摘の「出産手当金を全国統一の制度とすること」については、令和四年五月十八日の参議院本会議において、後藤厚生労働大臣(当時)が「国民健康保険では、様々な就業、生活形態の方が加入しており、出産に際しての収入減少の形態が多様であることから、出産前後の所得補償である出産手当金については保険者による任意給付としています。国民健康保険において出産手当金を全国的な制度とすることは、所得補償として妥当な支給額の算出が難しいこと、多様な被保険者間の公平性や財源の確保など、難しい課題があると認識しています」と答弁しているとおり、様々な課題があると認識している。


三 傷病手当金について
 1 傷病手当金の支給については出産手当金同様、市町村の条例や規約で定めることができるとされているが、一昨年一月より「新型コロナウイルス感染症に関して、感染拡大防止を目的として、保険者が傷病手当金を支給する場合に、支給額全額について国が特例的に財政支援を行う」仕組み(以下「コロナ特例」)が創設された。
  しかし、対象者は「国民健康保険に加入している被用者のうち、新型コロナウイルス感染症に感染した者、又は発熱等の症状があり感染が疑われ、療養のため労務に服することができなかった者」とされている。なぜ「被用者」だけなのか。目的が「感染拡大防止」であるなら、被用者であっても自営業者であっても等しく感染症に罹患するのであり、対象を被用者のみとすることには納得できない。合理的理由を述べられたい。
 2 「コロナ特例」による傷病手当金の支給目的は感染拡大防止であり、いわば社会防衛のためである。しかし、やむを得ず休業せざるを得ない場合の所得保障は、憲法第二十五条「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するために必要な制度でなければならない。
  現在新型コロナウイルスによる感染症の渦中にあり、今後も新たな感染症の発生が予想される今日、社会保障制度の一環として国保加入者の傷病手当金制度を確立すべきと考えるが政府の見解は如何。
 

三について
 国民健康保険法(昭和三十三年法律第百九十二号)第五十八条第二項に規定する傷病手当金(以下「傷病手当金」という。)は、被保険者が疾病又は負傷のため労務不能となり一時的に収入の喪失等を来した場合に、これをある程度補塡し、生活保障を行うことを目的とするものであるところ、新型コロナウイルス感染症に感染し、又は同感染症の感染が疑われる被用者に対して保険者が傷病手当金の支給を行った場合に、国が特例的に財政支援を行っている。自営業者等に対する支給を財政支援の対象とすることについては、令和三年三月十六日の参議院厚生労働委員会において、濵谷厚生労働省保険局長(当時)が「個人事業主につきましては、被用者と異なりまして、やっぱり療養の際の収入の減少の状況も多様でございます。また、所得補塡としての妥当な支給額の算出も難しいといった課題もございます。そういったことから、全国的に財政支援の対象とすることには課題が大きいものというふうに考えております」と答弁しているとおり、様々な課題があると認識している。また、「社会保障制度の一環として国保加入者の傷病手当金制度を確立すべき」の意味するところが必ずしも明らかではないが、国民健康保険においては、被用者や自営業者等が加入しており、療養を行う際の収入の喪失等の状況が多様であることから、傷病手当金については、条例又は規約の定めるところにより、各保険者の実情に応じた給付を行うことができることとしているところ、傷病手当金を全国的な制度とすることについては、所得補塡としての妥当な支給額の算出が難しいこと、多様な被保険者間の公平性や財源の確保を図る必要があること等の様々な課題があると認識している。なお、政府としては、働きたい人が働きやすい環境を整えるとともに、所得保障を厚くする観点から、短時間労働者への被用者保険の適用拡大を着実に進めていくことが重要と考えている。