妊婦の血液から胎児の染色体異常を調べる出生前検査(NIPT)に関して、認証を受けずに検査を実施している医療機関があることや、母子健康手帳を配布する際に検査について知らせることが優生思想につながる可能性があることなどについて、2月8日に質問主意書を提出し、同月17日に答弁を得ました。
令和五年二月八日提出
質問第三号
出生前検査に関する質問主意書
提出者 阿部知子
令和五年二月十七日受領
答弁第三号
内閣総理大臣 岸田文雄
妊婦の血液から胎児の染色体異常を調べる出生前検査(以下、NIPT)に関しては、二〇一三年に日本産科婦人科学会が指針を策定するとともに、日本医学会が施設の認定制度を設けて検査が行われてきた。しかし、認定施設以外での検査が増加し、適切な遺伝カウンセリングが行われずに受検するなどの問題が指摘されていたことから、厚生労働省は二〇一九年十月から二〇二〇年七月までワーキンググループで実態把握や分析を行い、その報告を踏まえて二〇二〇年十月に厚生科学審議会科学技術部会の下にNIPT等の出生前検査に関する専門委員会を設置、翌年五月に報告書がまとめられた。報告書に基づいて二〇二二年二月に日本医学会出生前検査認証制度等運営委員会が「NIPT等の出生前検査に関する情報提供及び施設認証の指針」を公表した。旧制度では認定施設が大学病院など百八施設に限られていたが、指針に沿って、同年九月に連携施設、暫定連携施設合わせて二百四施設が発表され、六月に公表されていた基幹施設と合わせて三百七十以上の施設が認証された。これらの状況を踏まえて、質問する。
一 新たな認証制度によって対象施設が拡大した現在においても、インターネット上には認証を受けずに検査を実施している施設の情報があふれている。報道や専門委員会の報告書によると、非認証施設は皮膚科や美容外科など専門外の医療機関も含まれており、十分な説明や遺伝カウンセリングが行われなかったり、結果が郵便やメールで伝えられたり、結果判明後のフォローが十分でなかったりするケースもあることが指摘されている。また、運営委員会の指針で定められている三種類以外の、精度が検証されていない検査を行っているところもある。これらのことから、NIPTをめぐる問題には国が主体的に取り組む必要があると考える。まずは、どの施設でどのような検査が行われているのか、検査にあたっての説明やカウンセリングはどのようになされているのか、結果の伝達やその後のフォローがどのように行われているのか、非認証施設も含めて実態を調査する必要があると思うが、国の見解を示されたい。
一について
お尋ねについては、令和元年十月から令和二年七月まで開催された厚生労働省の「母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)の調査等に関するワーキンググループ」において、当時、日本医学会等の関係団体が共同して運用していた認定制度による認定を受けた施設及び受けていない施設に対して調査を行い、NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査をいう。以下同じ。)の実態の把握及び分析を行ったところである。
また、令和二年度から令和四年度までの厚生労働科学研究費補助金による「出生前検査に関する妊産婦等の意識調査や支援体制構築のための研究」において、現在、NIPTを含め、母体内の胎児の状況を把握するために行われる検査(以下「出生前検査」という。)の実態等の調査を行っているところである。
二 専門委員会の報告書では、今後の課題として認証制度について「一定の基準を満たした検査実施医療機関を全国に整備するとともに、NIPTの受検を希望する妊婦及びそのパートナーが非認証施設で受検するのではなく、認証医療施設で受検するよう促すことを目的としている」などとある。国としては今後、認証施設での受検を促すためにどのような施策を実施していくつもりか、また、非認証の施設に対してどのような対応を取るつもりか、答えられたい。
二について
お尋ねの「認証施設での受検を促すため」の施策については、厚生労働省において、公益社団法人日本医師会等の関係団体に対して、「NIPT等の出生前検査の適切な運用について(依頼)」(令和四年六月十七日付け子母発○六一七第一号厚生労働省子ども家庭局母子保健課長通知)を発出し、NIPT等の出生前検査の適切な運用について依頼するとともに、都道府県、市町村及び特別区(以下「都道府県等」という。)に対して、「NIPT等の出生前検査に関する情報提供及び認証制度について」(令和四年六月十七日付け子母発○六一七第二号厚生労働省子ども家庭局母子保健課長通知。以下「都道府県等宛て通知」という。)を発出し、日本医学会出生前検査認証制度等運営委員会(以下「運営委員会」という。)が実施する認証制度(以下「認証制度」という。)において認証された医療機関(以下「認証医療機関」という。)を把握の上、NIPTの受検を考慮する妊婦等に対し、妊娠及び出産に関する包括的な支援の一環として、適切な情報提供を行うよう依頼し、併せて、運営委員会が作成した妊婦向けのチラシ等を示したところである。
お尋ねの「非認証の施設に対」する対応については、令和三年五月に厚生科学審議会科学技術部会NIPT等の出生前検査に関する専門委員会(以下「専門委員会」という。)が取りまとめた「NIPT等の出生前検査に関する専門委員会報告書」(以下「報告書」という。)において、「非認証施設も含めた登録制度や法的規制を設けるべきとの意見も出されたが、まずはNIPTに係る認証制度を新設し、その運用状況を見ながら、必要に応じて、本専門委員会において対応を検討する」とされたところであり、これを踏まえ、必要な対応を検討してまいりたい。
三 同指針では、「市町村で母子健康手帳を交付する際にチラシを使って検査について情報提供する」としている。同指針は、自治体の情報提供を「受検を勧奨するものではない」としているが、専門委員会の報告書によると、妊娠経験者へのNIPTについてのインターネット調査結果(二〇一五年、有効回答数二千二百二十一)では、検査について「知らないままで良かった」という声もあり、情報提供は、意図しなくても受検を勧めていると理解されることがあることに留意が必要であるとしている。一九九九年に厚生科学審議会先端医療技術評価部会の出生前診断に関する専門委員会が出した「母体血清マーカー検査に関する見解」においては、「本検査の情報を積極的に知らせる必要はない」としていた。この間、国内でもNIPTが行われるようになり、非認定施設での検査が増え、スマートフォンの普及で情報が入手しやすくなったなど、妊婦を取り巻く社会環境の変化があることは理解できるが、基本的にすべての妊婦に情報提供することに方針を転換した根拠を示されたい。
三について
出生前検査に係る情報提供については、報告書において、「近年、ICTが普及し、・・・誰もが容易に出生前検査に係る情報へのアクセスが可能となっているが、信憑性を欠く情報も散見される。他方、出産年齢の高年齢化や仕事と子育ての両立への懸念などを背景として、様々な不安や疑問を抱え、出生前検査についての正しい情報や相談ができる機関を求める妊婦が増加しており、このような妊婦に寄り添った支援の充実が求められている状況にある」ことから、「今後は、妊娠・出産に関する包括的な支援の一環として、妊婦及びそのパートナーが正しい情報の提供を受け、適切な支援を得ながら意思決定を行っていくことができるよう、妊娠の初期段階において妊婦等へ誘導とならない形で、出生前検査に関する情報提供を行っていくことが適当である」とされたことを踏まえ、都道府県等宛て通知において、地域の認証医療機関を把握の上、NIPTの受検を考慮する妊婦等に対し、妊娠及び出産に関する包括的な支援の一環として、適切な情報提供を行うよう依頼したところである。また、厚生労働省においては、令和四年度出生前検査認証制度等広報啓発事業により、ウェブサイトの作成やシンポジウムの開催等を通じて、妊婦等に対し、出生前検査に関する正しい情報を提供していくこととしている。
四 日本産科婦人科学会周産期遺伝に関する小委員会の「NIPT受検者のアンケート調査結果について」によれば、認定施設が加盟するNIPTコンソーシアムが二〇一三年四月から二〇二〇年三月までに実施した八万六千八百十三件の検査で陽性が判明した千五百五十六例のうち千八十三例が妊娠を中断しており、中断率は七十八・二%に上る。21トリソミー(ダウン症候群)に限ってみると九百四十三例中七百七十四例が妊娠を中断し、中断率は八十七・五%に上る。このようにNIPTが広く呼びかけられ、胎児に障害があることが疑われた場合、多くが妊娠を中断している現状がある。妊娠の中断は母親である女性に肉体的、精神的な負担と苦痛を強いるだけでなく、障害者の出生を防止するという優生学的な思想を生むこと、また、障害者の存在や人権を脅かす可能性があることを、障害者権利条約を締結している立場から、国としてどう考えるか見解を答えられたい。
四について
人工妊娠中絶は、母体保護法(昭和二十三年法律第百五十六号)第十四条第一項の規定に基づき、妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれがある場合等に、母性の生命健康を保護することを目的として行われているものである。
その上で、出生前検査については、報告書において、「出生前検査は、胎児の状況を正確に把握し、将来の予測をたて、妊婦及びそのパートナーの家族形成の在り方等に係わる意思決定の支援を目的とする」ものであって、「ノーマライゼーションの理念を踏まえると、出生前検査をマススクリーニングとして一律に実施することや、これを推奨することは、厳に否定されるべきであ」り、「出生前検査の受検によって胎児に先天性疾患等が見つかった場合の妊婦等へのサポート体制として、各地域において医療、福祉、ピアサポート等による寄り添った支援体制の整備等を図る必要がある」ことが、出生前検査についての基本的な考え方として示されたところである。
このため、厚生労働省においては、報告書における出生前検査についての基本的な考え方を踏まえ、令和三年六月に、都道府県等に対して、「出生前検査に対する見解・支援体制について」(令和三年六月九日付け子母発○六○九第一号・障障発○六○九第一号厚生労働省子ども家庭局母子保健課長及び社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課長連名通知)を発出し、母子保健に関する施策と障害児の医療及び福祉に関する施策との連携を求めているところであり、引き続き、支援体制の整備等について必要な取組を進めてまいりたい。
五 同指針では「産まれながらの病気の有無やその程度と本人及びその家族の幸、不幸は本質的には関連がない」としている。ダウン症をはじめNIPTで検査されるトリソミーの子どもたちのこの十年における生命予後や医療・生活ケアの向上について、国はどのように把握し、妊婦やパートナーへの遺伝カウンセリングにおいてどう伝えているのか、伝える際の指針はあるのか。また、NIPTのあり方や遺伝カウンセリングに関して、遺伝的な病気のあるお子さんを持つ方々の要望をどのように把握しているのか。
五について
前段のお尋ねについては、例えば、専門委員会における専門家の議論を踏まえ、報告書においても、胎児や新生児に係る医療の質の向上、障害児や障害者に係る福祉の充実等について記載されているところであり、厚生労働省においては、こうした専門家の議論等を通じて、御指摘の「ダウン症をはじめNIPTで検査されるトリソミーの子どもたちのこの十年における生命予後や医療・生活ケアの向上」等について把握しているところであり、また、御指摘の「同指針」においては、NIPTを実施する医療機関に対して、遺伝カウンセリング方法等が示されているとともに、認証制度における認証の要件として、「NIPTの実施前後の妊婦の意思決定について、妊婦が希望する場合は小児医療の専門家・・・の支援を受けられるようにすること」が示されているものと承知している。加えて、医療機関と公的機関等が連携し、情報提供や遺伝カウンセリング等を行うことが重要であることから、都道府県等において妊婦への情報提供や相談支援が適切に実施されるよう、同省においては、専門家の協力を得て、母子保健指導者養成研修を実施し、都道府県等の担当者に対して、御指摘の「この十年における生命予後や医療・生活ケアの向上」に関する情報を含め、NIPT等の出生前検査に関する情報を提供しているところである。
後段のお尋ねについては、専門委員会及び運営委員会に、ダウン症等の者の保護者が所属する団体の代表者及び障害者又は障害児に関する保健医療福祉関係者が委員として参加しているところであり、これらの場を通じて、「遺伝的な病気のあるお子さんを持つ方々の要望」等を把握しているところである。
以上