2月9日提出した「原発関連施設への軍事攻撃が生じた際の我が国の防護体制に関する質問主意書」
同21日に答弁がきました。この間のロシアによるウクライナ侵攻により、民生用原発等への攻撃が危惧される中、政府はどのような対応検討しているかなどを問いました。
令和五年二月九日提出
質問第六号
原発関連施設への軍事攻撃が生じた際の我が国の防護体制に関する質問主意書
提出者 阿部知子
内閣衆質二一一第六号
令和五年二月二十一日
内閣総理大臣 岸田文雄
ロシアによるウクライナ侵攻により、原子力発電所が攻撃対象となりうる事態が生じている。これまでの攻撃で、ザポリージャ原発の外部電源が一時喪失し、核燃料冷却ができなくなり大惨事につながるおそれが今も続いている。欧州最大規模と言われる同原発が事故(爆発)を起こしたら、一基でも福島第一原発事故を上回る規模の被害も指摘されている。また電源喪失以外にも、安全システムの破壊、火災による放射性物質の拡散、ミサイル・爆撃攻撃による破壊、運転員の死傷に加えて、活動の停止も十分に起こりうるリスクである。ジュネーヴ条約で「~原子力発電所は~軍事目標である場合であっても~住民の間に重大な損失をもたらすときは、攻撃の対象としてはならない」(第五十六条一項)とされているが、他方、我が国の原発への軍事攻撃について「新規制基準の中で武力攻撃に対する規制要求はしていない」(二〇二二年三月四日参議院議院運営委員会、山中原子力規制委員会委員答弁)とし、議論も現在なされていないとのことである。
以上を踏まえ、我が国の原発関連施設への防護体制の現状について、質問する。
一 我が国の原発関連施設への攻撃影響については、外務省「原子炉施設に対する攻撃の影響に関する一考察」(一九八三年度委託研究報告書)で分析されている。この報告書は、一九八一年にイスラエル空軍がイラクの研究用原子炉施設を爆撃したことを契機に実施されたとある。内容は、福島第一原発事故とほぼ同じ状況である「Ⅰ補助電源喪失」の状況、攻撃による「Ⅱ格納容器破壊」、「Ⅲ原子炉の直接破壊」という三つのシナリオからなる。なお、「Ⅱ」については、我が国の特定の原発を対象とはせず、米国原子力規制委員会の「安全評価レポート」を参考に取りまとめられ、避難をしなかった場合の死亡者数等についても記載されている。当該報告書については、「外務省の公式見解でない」と「ことわりがき」に記載されているが、その後核施設への攻撃影響は政府として体系的に検討されることはなく、「国家安全保障戦略について」では、(6)国際テロ対策の強化でも「原子力関連施設の安全確保等の国内における国際テロ対策の徹底はもとより、世界各地で活動する在留邦人等の安全を確保するため、国際テロ情勢に関する情報収集・分析を含め、国際テロ対策を強化する。」にとどまり、具体的な原発への軍事攻撃対策が明記されていない。
原子力災害対策特別措置法第四条の二「国は、大規模な自然災害及びテロリズムその他の犯罪行為による原子力災害の発生も想定し、これに伴う被害の最小化を図る観点から、警備体制の強化、原子力事業所における深層防護の徹底、被害の状況に応じた対応策の整備その他原子力災害の防止に関し万全の措置を講ずる責務を有する。」とあるように、我が国における、原子力防護体制の確立は急務であると考えるが、今後当該対策の研究・分析をする予定があるか。
一について
お尋ねについては、政府として、国民の生命及び財産を守るため、平素より、様々な事態を想定して所要の検討を行っているところである。
二 我が国では、国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部がテロリスト等による妨害破壊活動等への懸念から、「原子力発電所等に対するテロの未然防止対策の強化について」(平成二十三年十一月十四日)を決定し、防護措置の強化、内部脅威対策の強化等を行い、原子力事業者が周辺防護区域の外側に「立入制限区域」を設けてフェンス等により人が容易に立ち入ることを防止することとしたほか、海水冷却ポンプ等の屋外の重要な設備にも障壁を設置し、内部脅威対策のために防護区域内の主要設備における保守・点検時等の一人での立入りの禁止(ツーマンルール)を徹底するようにした。また、「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則」第四十二条に定められるように「特定重大事故等対処施設」を原子炉周辺に設置することが義務付けられた。
こうしたことを踏まえ、テロ対策は講じられているといえるのか、これまで核テロリズムと戦争の境目、すなわちグレーゾーンがあり得ることをどう考えているか。そして、具体的な核テロリズムの対応策をお示しいただきたい。
二について
お尋ねの「テロ対策」については、政府において、平素より、原子力事業者、警察、海上保安庁、自衛隊、地方公共団体等の関係機関が適切に連携し、迅速かつ的確に対応できるよう、必要な対策を講じているところであり、また、原子力事業者に対して、国際原子力機関の核物質防護勧告等の最新の国際的知見を踏まえながら、実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則(昭和五十三年通商産業省令第七十七号)を改正し、妨害破壊行為等の脅威に備えることを義務付けているところである。
御指摘の「核テロリズムと戦争の境目、すなわちグレーゾーン」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、原子力発電所で発生するあらゆる事態への対応に万全を期すため、原子力発電所の敷地内において自衛隊と警察が共同訓練を実施するなど、平素から関係機関相互の連携を強化し、必要な対策に取り組んでいるところである。
お尋ねの「具体的な核テロリズムの対応策」については、これを明らかにすることにより、今後の対応に支障を来すおそれがあることから、お答えすることは差し控えたい。
三 我が国の原発関連施設への防護体制としては、二〇〇一年の米国同時多発テロ事件以降から、原発特別警備部隊が二十四時間三百六十五日警備にあたっている。海上保安庁もこれに同様と認識しているが、テロ発生時には、特殊部隊(SAT)や、緊急事態状況等に応じて自衛隊が動員されることとなっている。
また有事の際には、消防、警察も対応にあたると認識するが、二〇一一年福島第一原発事故を経て、自衛隊、警察、消防等がどのような対策、配置をされ、加えて放射性物質からの被曝管理などをするのかご回答いただきたい。
三について
御指摘の「有事の際」の具体的な状況が必ずしも明らかではないが、「自衛隊、警察、消防等がどのような対策、配置をされ、加えて放射性物質からの被曝管理などをするのか」については、これを明らかにすることにより、今後の対応に支障を来すおそれがあることから、お答えすることは差し控えたい。
四 原発関連施設への攻撃が生じた際は、どのような会議体、あるいは体制で臨むのか。防衛省、警察庁、消防庁、または内閣府や規制庁など多岐にわたる省庁が対応にあたると思うが、実際はどうか。
一方、平時に当該事項について議論する場がもたれているのかどうかも併せてご回答いただきたい。
四について
御指摘の「原発関連施設への攻撃が生じた際」の具体的な状況が必ずしも明らかではないが、政府としては、国民の生命及び財産を守るため、平素より、様々な事態を想定して関係機関が連携して所要の議論、シミュレーション及び訓練を行っているところであり、また、お尋ねの「会議体」又は「体制」としては、例えば、武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(平成十五年法律第七十九号)第二条第二号に規定する武力攻撃事態に至ったときは、同法第十条第一項の規定に基づき事態対策本部を設置することとされているところである。
以上