阿部とも子提出の「東京電力福島第一原発の汚染水処理に関する質問主意書」に対する政府答弁が3月31日に閣議決定されました。
以下、質問に対する政府答弁(赤字)の概略 です。
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東京電力福島第一原発の汚染水処理に関する質問主意書
来日した国際原子力機関(IAEA)のグロッシー事務局長は、二月二十五日に安倍総理を表敬した他、二十七日までに関係閣僚および更田原子力規制委員会委員長と会談を行った。その後の会見で、グロッシー事務局長が東京電力福島第一原発(一F)の汚染水の海洋放出について一定の理解を示したと報道された。
また、外務省のウェブサイトによれば、茂木外務大臣との会談では、「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会(ALPS小委員会)の報告書を精査しており、IAEAとしても建設的な役割を果たしたい。いずれにせよ、開放性と透明性の確保を含め、本件の解決に向けて日本政府と協力していきたい」と述べたと言う。
さらに、経済産業省から入手した資料によれば、梶山経産大臣との会談でグロッシー事務局長は、「ALPS小委の報告書で記載された内容について現場でも確認することにより、とてもよい印象を持つことができた。報告書の中で最終的に提言された二案は、これまでの国際的な慣行と合致するものであり、私は安心している」旨を述べたと言う。
しかし、ALPS小委員会の報告書では、すべての情報が分かりやすく網羅されているわけではない。一方、大半の国民にとっては、グロッシー事務局長がいう「国際的な慣行」についても、トリチウムの規制のあり方についても、馴染みがない。
そこで、以下質問する。
一 ALPS小委員会の報告書で明解に説明されていない事実について
1 一Fでは事故前からトリチウムを海洋に放出していたが、二〇一〇年の放出実績は何ベクレルであり、現在一Fのタンクで貯蔵されているALPS処理水の量は、二〇一〇年の放出実績の何年分にあたるかを明らかにされたい。
・2兆2千ベクレル
・856兆ベクレル
・389倍 (つまり、389年分)
2 二〇一九年十一月十八日のALPS小委員会で示された東電の資料「多核種除去設備等処理水の貯蔵・処分の時間軸」によれば、一Fの廃炉を三十/四十年で完了すると仮定した場合、二〇二〇年に処分を開始した場合は一年あたり約三十九/二十七兆ベクレル、二〇二五年処分開始の場合は約五十一/三十二兆ベクレル、二〇三〇年処分開始の場合は約六十八/三十七兆ベクレル、二〇三五年処分開始の場合は約百六/四十三兆ベクレルを処分することとなるとしている。
しかし、一Fの従来の放出管理目標値は一年あたり二十二兆ベクレルである。原発事故が起きた途端にそれを緩和しようと考えるのは何故か。
・東京電力が一定の過程の元で試算した結果であり、実際の処分量を決めたものではない。
3 昨年十二月五日に原子力規制庁に一Fの従来の放出管理目標値である二十二兆ベクレルの根拠を尋ねたところ、「歴史的には一九七二年、昭和四十七年に当時の原子力委員会が、我が国の原子力安全上の通常運転時に放出される放射性物質について、どのようにモニタリングしていくかについて、環境安全専門部会が設置され(略)、その後、一九七四年、昭和四十九年に環境・安全専門部会環境放射能分科会が、米国でのトリチウム放出の実績を踏まえて、同じ沸騰水型BWRの放出実績を踏まえて、我が国の管理目標をとりまとめています。当時とりまとめたのが、我が国では三・七兆ベクレルというのが一基あたりですね。管理していく努力目標として定められています。六基ございましたので、三・七兆ベクレル×六で二十二兆ベクレルです」との説明を受けた。
この管理目標を定めた際の諮問や決定文書を求めたところ、確認できないとの回答があり、その代わりに、当時の報告書があるとして、昭和四十九年七月に策定された「環境・安全専門部会報告書(環境放射能分科会)」の存在が示された。
一Fにおける一年あたり二十二兆ベクレルの放出管理目標値が決まった経緯はこの通りで間違いないか。
・お尋ねの通り。
4 「環境・安全専門部会報告書(環境放射能分科会)」(昭和四十九年七月環境・安全専門部会)は、過去の経緯により、現在、原子力委員会のウェブサイトに掲載されていると言うが、今後は、原子力規制を所管する原子力規制委員会が保管するべき文書ではないか。
・原子力委員会のウェブサイトで公開されていることから、現時点では原子力規制委員会が保管すべきものとは考えていない
5 「環境・安全専門部会報告書(環境放射能分科会)」を読むと、当時の考え方として、「原子力施設からの放射線のみならずあらゆる線源からの放射線に対する防護の基本的な考え方と個人及び集団に対する具体的な線量限度とを勧告している。そしてその基本的な原則の一つに「被ばく線量は実用可能な限り低くすべきある」(doses be kept as low as practicable)という考え方が示されている。」と書かれている。
これは報告書が出された一九七四年の考え方であり、その後、国際放射線防護委員会が一九七七年に、すべての被ばくは社会的、経済的要因を考慮に入れながら合理的に達成可能な限り低く抑えるべきであることを表す「as low as reasonably achievable」(ALARA)の原則を勧告し、放射線防護の考え方の基本となっている。
ALARAの原則に基づく放出管理目標値の見直しが行われていないのは何故か。行うべきではないか。
・廃炉を表明しているから、現時点において同基準値を見直す必要はない
・doses be kept as low as practicableの原則とALARAの原則との間に基本的な考え方の相違はない。
6 事故を起こした一Fについても、ALARAの原則が適用されるべきではないか。適用しないのであればそれはいかなる理由か。
・原子力規制委員会が平成24年11月7日に決定した「措置を講ずべき事項」の中で、「特定原子力施設から大気、海等の環境中へ放出される放射性物質の適切な抑制対策を実施することにより、敷地周辺の線量を達成できる限り低減すること」を求めている。
・ALARAの原則と同様
7 経済産業省は株式会社三菱総合研究所に委託した調査結果である「平成二十八年度発電用原子炉等利用環境調査(トリチウム水の処分技術等に関する調査研究)報告書」を二〇一七年三月に受け取っている。これはALPS小委員会の検討に資するように行った調査であると書かれている。共通調査項目には「合意形成プロセス」の観点が含まれているが、たとえばイギリス、フランスで、それぞれ地域住民とどのような合意形成プロセスを経ていると認識しているか。また、汚染水処理における合意形成プロセスにこの報告書をどのように活かしていくのか。
・地元をはじめとする関係者からのご意見をしっかりとお伺いした上で、政府として意思決定を行ってまいりたい。
二 グロッシー事務局長の「報告書の中で最終的に提言された二案は、これまでの国際的な慣行と合致するもの」との発言について
1 日本政府としてはトリチウムの処理についての「国際的な慣行」をどのようなものであると認識しているか。
・グロッシー事務局長の発言に関することであるため、政府としてはお答えは差し控えたい。
2 トリチウムの海洋放出を総量規制している国を経済産業省の原子力発電所事故収束対応室に尋ねた結果、フランス、ドイツ、イギリスが行っているとの回答を原子力規制庁原子力規制部から得たが、日本はなぜ総量規制を設けていないのか。
3 原子力規制庁にフランス、ドイツ、イギリスがトリチウムの海洋放出を総量規制している根拠データを問い合わせ、示されたIAEAの報告書「Setting Authorized Limits for Radioactive Discharges: Practical Issues to Consider」には、各国の総量規制のやり方が記載されていた。
たとえば、フランスでは、年間の総量規制と共に、一ヶ月の上限、場合によっては日量の総量規制もあると書かれている。総量規制に年単位、月単位、日単位を設けるのは何故か。日本政府は調査を行っているか。
・告示で年間1ミリシーベルト以下となるように限度を定めており、規制を満たす濃度であれば人の健康に有害な影響を与えるとは考えられないことから、御指摘の「総量規制」は設けていない。
・フランスの規制手法については調査を行っていない。
4 3で前述したIAEAの報告書によれば、フランスでは、一九八八年二月二日の政令で、定めた制限を超えてはならないことも規定されている。総量規制を行うことは国際的な慣行であると日本政府は認識しているのか。
・フランス、ドイツおよび英国において放出量についての規制を導入している旨記載されていることは承知している。
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