2023/08/01

【質問主意書・答弁】「ALPS処理水の海洋放出の科学的評価等に関する質問主意書」

6月16日提出「ALPS処理水の海洋放出の科学的評価等に関する質問主意書」の答弁が、同30日にきました。処理水をめぐっては、その安全性が問われているところ、政府見解を問いました。

衆議院HPからもみれます。

令和五年六月十六日提出
質問第一三二号
ALPS処理水の海洋放出の科学的評価等に関する質問主意書

提出者  阿部知子

 

内閣衆質二一一第一三二号
令和五年六月三十日

内閣総理大臣 岸田文雄


 東京電力(以後、東電)による福島第一原発ALPS処理水の海洋放出については、政府が二〇二一年四月に方針を決定し、実施の準備が進められている。他方、太平洋諸島フォーラムの専門家パネル(以後、PIF専門家パネル)や近隣諸国(韓国・中国など)からは日本政府から提供されるデータの質と量が不十分で、生物濃縮に関する考察が著しく欠けているなどの懸念が表明されてきた。こうした状況下で、政府の見解を以下、質問する。

一 今年二月及び四月、合計三度にわたり、外務省、経済産業省は、PIFと会談を実施。また、PIF専門家パネルは原子力規制委員会と東電とも会談を行ったと聞く。PIF専門家パネルからは、生物濃縮に関する影響評価の欠如などが指摘されているが、政府はどのように対応するのか。対応しないとすれば、それはなぜか。

一について
 御指摘の「PIF専門家パネル」からの「指摘」については、令和五年二月九日に開催した「東京電力福島第一原子力発電所のALPS処理水の現状に関する太平洋諸島フォーラム(PIF)事務局及び専門家向け対面説明会」などの機会を通じ、太平洋諸島フォーラム事務局及び御指摘の「PIF専門家パネル」に対し、東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所(以下「福島第一発電所」という。)の御指摘の「ALPS処理水」(以下「ALPS処理水」という。)の海洋への放出(以下「海洋放出」という。)を計画するに当たって環境への影響評価を実施してきていることを含め、ALPS処理水の現状について、科学的根拠に基づき丁寧に説明し、継続的なやり取りを行ってきているところである。引き続き、科学的根拠に基づき、先方に対して丁寧な説明を行うとともに、ALPS処理水に関する対応を着実に進めていく考えである。

 

二 ALPS処理水には「放射性廃棄物」が含まれており、PIF専門家パネル有識者からは「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」(以後、ロンドン条約)でいう「投棄」であるという批判がなされている。ロンドン条約第三条で「投棄」とは「海洋において廃棄物その他の物を船舶、航空機又はプラットフォームその他の人工海洋構築物から故意に処分すること」と定義されている。東電による地下トンネルからの海洋放出は、「その他の人工海洋構築物から故意に処分すること」ではないのか。


三 ロンドン条約の下で締結された「千九百七十二年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約の千九百九十六年の議定書」(以後、ロンドン議定書)でも、「海洋環境を保護し、及び保全し、並びに人の活動を管理するため、投棄による海洋汚染を防止し、低減し、及び実行可能な場合には除去する更なる国際的行動が遅延なくとられ得るもの」となることを目的に、第一条4・1で「投棄」についてはロンドン条約と同様に定義されている。さらに第一条4・2「投棄」の除外規定でも、「人工海洋構築物及びこれらのものの設備の通常の運用に付随し、又はこれに伴って生ずる廃棄物その他の物を海洋へ処分すること」に当てはまるとは到底考えられない。なぜなら「通常の運用」とは違い、事故に伴って特別に構築された設備だからである。そもそも放射性物質を拡散させた原子力災害事故の処理のために、特別に設備を設けて、更に放射性物質を海洋に拡散することは、ロンドン議定書の目的に反するのではないか。政府の見解を明らかにされたい。

 

二及び三について
 廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約(昭和五十五年条約第三十五号)は、海洋汚染の原因として、前文のパラグラフ五において、「投棄」と「大気、河川、河口、排水口及びパイプラインを通ずる排出等」を書き分けた上で、同条約の適用対象を「投棄」に限定しており、また、同条約第三条1(a)及び同条約の防止措置を一層強化するために作成された千九百七十二年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約の千九百九十六年の議定書(平成十九年条約第十三号)第一条4 4.1は、「投棄」を「海洋において廃棄物その他の物を船舶、航空機又はプラットフォームその他の人工海洋構築物から故意に処分すること」等と定義としていることから、陸上からの排出については、同条約及び同議定書の適用上、「投棄」に含まれないと解される。このため、ALPS処理水の御指摘の「地下トンネルからの海洋放出」は、トンネルを用いた陸上からの廃棄物等の海洋への放出であり、同条約及び同議定書の「投棄」には該当せず、同条約及び同議定書の適用対象とはならないと考えている。
 また、同議定書は、その目的について、同議定書第二条において、「締約国は、単独で又は共同して汚染のすべての発生源から海洋環境を保護し、及び保全し、並びに自国の科学的、技術的及び経済的な能力に応じて、廃棄物その他の物の投棄又は海洋における焼却により生ずる汚染を防止し、低減し、及び実行可能な場合には除去するための効果的な措置をとるもの」と規定しており、また、同議定書の締約国のとるべき措置は、「投棄」又は海洋における焼却に関するものであるところ、海洋放出については、同議定書の「投棄」に該当するものとはならないと解されることから、政府として、同議定書の目的に反するものとなるとは考えていない。


四 質問一に関連して、政府とPIFとの会合内容については、経済産業省ホームページ等に簡略に報告されているだけである。
 議事録・概要等詳細を公表すべきではないか。

 

四について
 御指摘の「政府とPIFとの会合内容」については、令和四年六月二日及び十六日並びに同年七月一日に開催した「東京電力福島第一原子力発電所のALPS処理水の現状に関する太平洋諸島フォーラム(PIF)事務局向けテレビ会議説明会」、令和五年二月九日に開催した「東京電力福島第一原子力発電所のALPS処理水の現状に関する太平洋諸島フォーラム(PIF)事務局及び専門家向け対面説明会」並びに同年四月十四日及び同年六月一日にオンラインで開催した「東京電力福島第一原子力発電所のALPS処理水の現状に関する太平洋諸島フォーラム(PIF)事務局及び専門家との対話」の御指摘の「概要」を経済産業省及び外務省のウェブサイトにおいて掲載しているところであるが、御指摘の「議事録」を含め、これ以上の「詳細」については、相手方との関係もあることから、お尋ねのように「公表」することは考えていない。


五 IAEAの「環境等への被ばく防護に関するセーフティガイドNo.GSG-8」(以後、GSG-8)によれば、放射性物質拡散値等が最低限度であって、かつ弊害を上回る利益が個人や社会にあった場合のみ、海洋放出が正当化されるものと理解する。政府は、ALPS処理水の海洋放出による利益にはどのようなものがあると認識しているか。

五について
 海洋放出については、福島第一発電所の敷地内に保管されているALPS処理水のタンクを減少させ、当該タンクの長期保管に伴う風評による影響や漏えいのリスクを減らすものであり、また、当該タンクやその配管設備等が福島第一発電所の敷地を広範囲で占有している現状を解消して当該敷地の有効な活用を実現し、原子力災害からの復興及び再生に不可欠な廃炉作業を円滑に進めていくことを可能とするものであると考えている。 


六 GSG-8については、原子力規制委員会のホームページには掲載されていない。他の「IAEA安全基準シリーズ」は翻訳・掲載されているが、GSG-8が掲載されていないのはなぜか。また、翻訳されていないとすれば、その理由はなぜか。

六について
 御指摘の「IAEA安全基準シリーズ」については、原子力規制委員会として、網羅的に翻訳を行っているものではなく、原子力規制庁の職員が頻繁に参照し、業務上の利便性の観点から翻訳することが必要であると考えられる範囲に限り、これに該当する部分の訳文を作成し、公表しているものであるところ、お尋ねの「GSG-8」については、同庁の職員が頻繁に参照する文献に該当しないため、御指摘のように「翻訳・掲載」は行っていない。

 

七 IAEAタスクフォースは、ALPS処理水の海洋放出にあたってGSG-8で定めた「正当化」の考え方は検討しないと聞くが、PIF専門家パネルは、GSG-8全体を準拠すべきだと指摘している。原子力規制委員会は、国際的な慣行に依拠するのではなく、GSG-8を準拠すべきではないか。

七について
 お尋ねの「国際的な慣行に依拠」の意味するところが必ずしも明らかではないが、御指摘の「GSG-8」については、国際原子力機関の策定する放射線防護等に係る安全要件である「IAEA SAFETY STANDARDS SERIES No.GSR PART 3(2014)」を満たすに当たって推奨される事項等を示したものであり、政府として、海洋放出に当たって、必ずしも御指摘のように「準拠すべき」ものであるとは考えていないが、海洋放出に関する取組が当該安全要件を満たしながら行われているものと認識している。

 

八 ALPS処理水の海洋放出の代替案として、セメント化による活用やモルタル固化による陸上保管案がPIF専門家パネルや国内識者から提案されてきた。モルタル固化については、経済産業省がコスト面等から選択しない検討を行ったが、セメント化による活用案は検討されたことはあるのか。検討されたのであれば、いつどのように行われたのか。

八について
 経済産業省において、有識者を含めて、平成二十五年から平成二十八年まで開催した「トリチウム水タスクフォース」及び同年から令和二年まで開催した「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」において、セメント系の固化材を用いた固化を含め、ALPS処理水への対応について、風評による影響など社会的な観点も含めた総合的な議論を重ねた結果、セメント系の固化材を用いた固化による対応については、トリチウムの水蒸気の放出を伴うなどの課題が多いものであると指摘されたところである。 

 

以上