2023/12/21

【質問主意書・答弁】東京電力福島第一原発から海洋排出される「ALPS処理水」の核種測定のあり方と外交課題に関する質問主意書

12月1日提出「東京電力福島第一原発から海洋排出される『ALPS処理水』の核種測定のあり方と外交課題に関する質問主意書」の答弁が、同12日にきました。処理水をめぐる外交課題について問いました。

衆議院HPからも閲覧可能です。

令和五年十二月一日提出
質問第八〇号
東京電力福島第一原発から海洋排出される「ALPS処理水」の核種測定のあり方と外交課題に関する質問主意書

提出者  阿部知子


 本年八月二十四日の正午から、東京電力福島第一原発から発生し続けている汚染水を濾過した「ALPS処理水」の海洋放出が開始され三ケ月が経過。東京電力(以後、東電)によれば、今年度の放出計画は、汚染水を処理した後に貯蔵するタンク約三十基分にあたる計約三万千二百トンを四回に分けて放出するとしている。十一月二十日には、三回目の放出が完了し、四回目は年明け以降とのことであるが、海洋放出をめぐっては国内外からの懸念が継続して指摘されている。
 超党派議員連盟「原発ゼロ・再エネ一〇〇の会」では、放出前から国内外有識者と共に、東電や経済産業省等とヒアリングを重ね、トリチウム以外の核種測定やモニタリングのあり方、「モルタル固化」等の代替案を提言し、環境・海洋生態系への懸念を指摘したところであるが、改めて、以下質問する。

一 「ALPS処理水」の海洋モニタリングは、海洋放出後九地点でトリチウムが測定されているが、海水で希釈後の処理水の海洋放出口周辺では、トリチウム以外の二十九核種の核種測定がなされていない。
 1 希釈に用いる海水に含まれる放射性物質の影響もあり得ることから、まずは希釈後放出時点での測定がなされるべきではないか。
 2 また放出口付近の海底土にも沈澱等により、汚染が生じるのではないかと危惧する。海洋放出口周辺の海底土を経年的に測るべきではないか。

 

一について
 お尋ねについては、政府としては、東京電力ホールディングス株式会社(以下「東京電力」という。)において、原子力規制委員会に認可された「福島第一原子力発電所 特定原子力施設に係る実施計画」(令和五年五月十日付け変更認可)に基づき、御指摘の「ALPS処理水」(以下「ALPS処理水」という。)の海洋への放出(以下「海洋放出」という。)の対象となるALPS処理水の希釈を行う前に、その都度、当該海洋放出の対象となるALPS処理水に含まれる合計三十核種の放射性物質を測定しているものと承知している。また、令和五年二月に東京電力が作成した「多核種除去設備等処理水(ALPS処理水)の海洋放出に係る放射線環境影響評価報告書(建設段階・改訂版)」において、希釈に用いられる海水による影響を含めてもなお、海洋放出による人への影響が小さいことが確認されているものと承知している。こうしたことから、希釈を行った後のALPS処理水及び御指摘の「海洋放出口周辺の海底土」において「二十九核種」の放射性物質を測定する必要はないと考えている。
 なお、政府としては、東京電力において、「総合モニタリング計画」(平成二十三年八月二日モニタリング調整会議決定)に基づき、東京電力福島第一原子力発電所の周辺の海域のモニタリングを実施する際に、その一環として、同海域の海底土についても、継続的にモニタリングを実施しているものと承知している。

 

二 令和五年六月十六日提出「ALPS処理水の海洋放出の科学的評価等に関する質問主意書」(阿部知子提出)でも質問したが、太平洋諸島フォーラム(以後、PIF)の専門家パネルからは、かねてより「海洋放出」によって、トリチウムはもちろんのこと、他の核種も含めて海洋生態系への汚染が拡大すること等が指摘されてきたが、いまだに払拭されていない。
 政府は、昨年六月からPIFと六度の〝科学的対話〟をし、本年七月三十一日には、PIFとの報告書「Report on the dialogues between the Government of Japan and the PIF regarding Advanced Liquid Processing System(ALPS) Treated Water at TEPCO's Fukushima Daiichi Nuclear Power Station」を公表、「日本政府として、太平洋島嶼国・地域に対し、高い透明性をもって科学的根拠に基づく丁寧な説明を引き続き行っていく」としている。他方、PIFは九月十五日にフィジーでの外相会合を開催し、この時に議長国等から、日本政府とIAEA(国際原子力機関)に引き続いて影響説明をするように求められたと認識する。
 1 政府は放出後、PIFや加盟諸国に対して、どのような説明や働きかけをしたのか。
 2 また、十一月十一日のPIF会合(於:クック諸島)でも一部の首脳らが海洋汚染へ強い懸念を示し、発表された総会コミュニケでも「太平洋における核汚染の潜在的脅威」について言及されている。政府は指摘される核汚染の潜在的脅威についてどう認識しているのか。
 3 汚染水を根絶しない限り、海洋放出は続き、こうした外交上課題も解消されないと認識するが、同コミュニケの評価を受け、政府は今後どのような国際協力に基づく科学的検証、取組をしていくか。
  また、PIFと現在進行している対話・会議体などがあれば併せてお示しいただきたい。

 

二について
 御指摘の「核汚染の潜在的脅威」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、政府としては、海洋放出について、東京電力において、国際放射線防護委員会の勧告を踏まえて定められている核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年法律第百六十六号)に基づく規制基準を厳格に遵守し、安全に万全を期した上で、実施されているものと承知しており、御指摘の「放出」の開始以前より一貫して、様々なレベルにおいて、また、様々な機会を通じて、太平洋諸島フォーラムの加盟国及び同事務局に対し、海洋放出について、科学的根拠に基づき丁寧に説明し、継続的にやり取りを行ってきているところであり、今後もこれらを継続していく考えであるが、その具体的な内容等については、相手方との関係もあり、お答えすることは差し控えたい。


三 海洋放出を開始してから、中国は日本産水産物の全面禁輸を発表した。中国と香港は毎年合わせて十一億ドル(約千六百億円)相当の水産物を日本から輸入していることを鑑みると、我が国の水産物市場に甚大な影響が及んでいる。
 十一月十六日、岸田首相は中国の習近平国家主席と会談し、日本産水産物の輸入停止措置の即時撤廃を要求した。会談では、対話を通じた解決が中国側から示されたものの、海洋放出への懸念がここでも指摘された。
 1 本来であれば、放出前に説明がなされ、このような事態になることがないようにすべきではなかったか。どのような会議体・部署(省庁)が中国と意見交換をしたのか、また放出後はどのような説明を中国にしたのか。

 

三の1について

 お尋ねについては、政府としては、御指摘の「放出前」及び「放出後」のいずれにおいても一貫して、様々なレベルにおいて、また、様々な機会を通じて、中国に対し、海洋放出について、科学的根拠に基づき丁寧に説明してきており、また、日本産の食品に対する中国による科学的根拠のない輸入規制措置については、その即時撤廃を強く求めてきているところである。同国とのやり取りの具体的な内容等については、相手国との関係もあり、お答えすることは差し控えたい。

 

 2 今後、どのような形で中国政府と本件にかかる検証と対話の場に臨むのか。また会議体などを設置する予定があるのか。


三の2について
 お尋ねについては、令和五年十一月十六日(現地時間)にサンフランシスコで行われた日中首脳会談において「双方は、お互いの立場に隔たりがあると認識しながら、建設的な態度をもって協議と対話を通じて問題を解決する方法を見い出していくこと」で一致したところであり、これを踏まえ、政府として、引き続き、中国に対し、海洋放出に対する科学的根拠に基づく冷静な対応及び日本産の食品に対する中国による科学的根拠のない輸入規制措置の即時撤廃を強く求めていく考えである。同国とのやり取りの具体的な内容等については、相手国との関係もあり、お答えすることは差し控えたい。